新海誠監督を刺激したアニメ映画『メイクアガール』 ノベライズやスピンオフで明かされる、ヤバい主人公のヒミツ
スピンオフで描かれる天才だった母の過去
同時に、そうした状況へと至らせた水溜稲葉とはどのような存在だったのかといった興味も浮かんでくる。ノベライズと同時発売になった、同じく池田明季哉による『メイクアガール episode 0』がまさに、そうした興味を埋めてくれるスピンオフ小説だ。
主人公は川ノ瀬初という男子高校生で、大学が募集した〈次世代高校生プログラム〉に応募して2位の成績で参加資格を得たものの、本戦は3人ひと組でロボット作りに挑戦することになり、まず最下位だった深森ソナタと組むことを決める。そして残る1人を探しあぐねていた時、会場に遅れて飛び込んできた成績1位の水溜稲葉が、初やソナタと組むことを了解する。
稲葉もまだ17歳だったが、すでに天才研究者として知られていて、大会にも自分ひとりで作ったロボットで勝ち抜けると嘯く。初は3人で組むというレギュレーションに理由があると踏んで稲葉を説得し、3人がそれぞれにアイデアを出し合ってロボット作りに挑もうとする。
天才過ぎる稲葉の暴走に巧く足かせをかけたと言えそうな設定だが、気まぐれな稲葉がそうした提案を受け入れ大会に参加し続けた理由が、スピンオフ小説を読むうちにだんだんと見えてきて、明とは少し違った人間らしい感情を持っていることをうかがわせる。カップラーメンと栄養剤で十分といった合理性を重んじた思考回路は、明の母親らしいと言えるかもしれないが。
大会で3人が作ろうとしたロボットが行おうとする作業は、『メイクアガール』を観た人ならここに0号の行動の原点めいたものがあったのかと思うかもしれない。稲葉が記録したものが、明を経て0号に受け継がれているのだとしたら、それはそれで子を思う母親の優しさを感じさせるものだ。
もっとも、そうした母親らしい感情が向かった行方には、『メイクアガール』の明に感じたものに劣らないヤバさがある。稲葉はなにをしたかったのか。明に何をさせたかったのか。『メイクアガール』の結末に関わり、ノベライズのエピローグへと繋がるだけに、映画を観た人なら読んで損のない1冊だ。
自身、インディペンデントのシーンから登場してきた新海誠監督が、「ゴツゴツした手触りが目立つにせよ力に溢れた映画で、大いに刺激を受けました」とSNSで評したように、『メイクアガール』は大いに議論を誘うところがある作品だ。同時に新海監督同様の将来性を期待させる作品でもある。まずは観て、ノベライズやスピンオフ小説、さらに2月25日発売の、眞田天佑による明や邦人と同級生の茜をメインに描いた『小説版メイクアガール メイクマイセルフ』(MF文庫J)を読んで、安田現象が生み出した物語世界への興味を深めよう。