白泉社新社長・高木靖文「少女マンガ、かくあるべしと縛ることは絶対にしない」50年紡がれた『花とゆめ』のDNA

Webでも、新人発掘の情熱を絶やさない。

――電子コミックの隆盛や、縦読みマンガの勃興、IPビジネスの活性化など、マンガをとりまく現況はどうとらえていらっしゃいますか?

高木:まずマンガを読む媒体やプラットフォーム、あるいはグッズなども含めて、「作品にふれるタッチポイント」が増えていることは大歓迎です。

 他社の絵本のキャラクターグッズを扱うポップアップショップを覗いたとき、あきらかにその作品を知らないギャル二人組が「このキャラ、マジうけるんだけど。買っちゃおう!」とレジに向かうのを見たんです。「そうか!グッズが作品への入り口になることもあるんだ!?」と感心しました。「うちの会社にもグッズ展開が出来そうな作品がいっぱいあるぞ」と。絵本でもマンガでも、入り口・タッチポイントを増やすことは重要だと思います。

――実際、御社も自社マンガアプリ「マンガPark」やWebのマンガサイト「ヤングアニマルWeb」、さらに投稿サイトの「マンガラボ」など、デジタル領域に積極的ですね。

高木: 僕自身、『MELODY』から異動したコミックス編集部で、白泉社文庫やコンビニ本の編集に従事した後、2011年からライツ事業部に異動しました。そこでは版権管理をする仕事の他に「デジタル戦略室」という部署で、立ち上がったばかりのマンガのデジタル化を担う仕事を手掛けていました。

 まあ、たった1人の部署だったんですけどね(笑)。白泉社はすでにコマビュー配信は大きく展開していましたが、上司に「これからページビュー配信やることになるから研究しろ」と言われていました。

  一人だからこそ、白泉社のデジタルアーカイブをつくりながら、IT企業やゲーム会社に声をかけてページビューの勉強はもちろん、新しいゲームの立ち上げを企画するなど勝手なことをして、丸1年過ごしていました。後にページビュー配信が本格化して、スタッフも増やしてライツ事業部から名称変更して、電子配信を専門とするデジタル事業部へと発展しました。

 ただデジタルなどの新しい領域をやればやるほど、「作家さんや作品をリスペクトしている」、白泉社のもうひとつの伝統的な強みが効いているなと感じましたね。

白泉社新社長・高木靖文氏

――どういうことでしょう?

高木:電子書籍黎明期、過去の作品をデジタル化するときに、絶版になっていて版権を手放しているマンガ出版社が思いのほか多かったんです。しかし、過去の名作・ヒット作中心に収録していた白泉社文庫は絶版が比較的少なく、多くを保持したままでした。先生方との関係も続いていました。

 僕はライツ事業部に移る前に、コミックス編集部で白泉社文庫も手掛けていたので、そのありがたさを実感していました。なので「デジタル化もどうでしょう」と作家の方々にお願いする際もとてもスムーズでした。

 つまるところ、時代が変わり、マンガに触れる形が変わっても良い作品を生み、残すためには、作家の方々にかかっている。我々出版社、そして編集者の仕事は、作家の皆さんに存分に力を発揮してもらう環境づくりや良好な関係を保ちつつ、その作品をさらにひろめていくために応援を続けていくことだと思っています。

――新しい才能の発掘も同様ですよね。

高木:とても大事です。「マンガラボ」は新人発掘の機会を増やすために立ち上げた投稿サイトです。ここでは現役バリバリの弊社の編集者が、めちゃめちゃ投稿作品を読んでいます。良いと思ったらすぐに手を挙げて、担当させていただいています。

 かつてLaLa編集部時代は「LaLaまんがスクール移動教室」の名で、全国各地を作家さんと編集者がまわって、直接、作品の批評・アドバイスをするイベントを頻繁に実施していました。やまざき貴子先生や桑田乃梨子先生とは、移動教室の地方大会の生徒さんとして初めてお会いしました。とても貴重な機会だったと思います。

 リアルからWebに移っても、才能あふれる作家の方々を見つけ出し、情熱を形にしていくのは変わらない。白泉社の“らしさ”とDNAはここでも息づいているし、今後も変わらないと信じています。

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