アメリカの警察官はベテランになっても現場主義? 日米の刑事ドラマに登場する組織と階級を解説

フィクションに登場する警察組織

加賀山卓朗(著)、♪akira(著)、松島由林(イラスト)の『警察・スパイ組織 解剖図鑑』(エクスナレッジ)

 フィクションにはいくつか「定番」と呼ばれるジャンルがあるが刑事ドラマは、特にメジャーなものの一つだろう。

 ミステリーは人気ジャンルだが、謎解きをするとなると探偵役が必要になる。古典でもミス・マープルやブラウン神父のような素人が探偵役を務めるケースがあるが、やはり定番は私立探偵と刑事だろう。特にテレビドラマだと組織に所属する刑事が主人公のケースは非常に多い。統計を取ったわけではないが、多くの人の印象が一致するのではないだろうか。警察は一つの組織であり、一人の刑事を主人公にすることもできるが、一つの組織であるため群像劇にして主人公の存在をぼかすこともできる。前者の例でわが国で記録的長寿作品になっているのが『相棒』(テレビ朝日系)、後者のパターンでアメリカの記録的長寿番組になったのが『ロー&オーダー』だ。『相棒』は記事執筆中の2025年2月初頭現在、シーズン23が放送中。『ロー&オーダー』は20年継続し、スピンオフ作品の一本である『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』は今だ継続でシーズン26が本国で放送中である。

 刑事ドラマはエンタメ大国のアメリカで、数えるのも億劫になるほど大量に製作されている。アメリカは国土が広大であり、行政区分も法律も文化も日本と大きく異なる。勿論、刑事司法制度も警察組織の組織構造も違う。日本に「輸入」されてきた刑事ドラマを見て、日本人が観るとモヤッとしてしまう描写がたびたび登場してしまうのは無理からぬことだろう。だが、それらについての解説を筆者はあまり見たことが無い。

 それについて疑問を持っていたのだが、ようやくそのモヤモヤを解消してくれる一冊が出版された。2024年12月6日に発売された、加賀山卓朗(著)、♪akira(著)、松島由林(イラスト)の『警察・スパイ組織 解剖図鑑』(エクスナレッジ)である。今までこういった内容の記事を書く場合は、アメリカの警察組織のHPを見ていたので助かった(結局、今回も補足のために見たが)。今回は同書のほか、いくつかの参考文献を交えつつ「フィクションに登場する警察組織(主にアメリカ)」について解説していく。同書以外の書籍については適宜、文中で紹介する。

アメリカの刑事ドラマと警察組織

 日本の警察組織はそのすべてが国家公安委員会の管轄下にある。その管轄下に、警察庁→管区警察局→各都道府県警→所轄署→交番というかなりわかりやすい階層構造ができている(ただし首都東京を管轄とする警視庁と、管轄地の面積が広い北海道警は管区警察局ではなく警察庁直接の監督下にある)。

 『相棒』は警視庁、『教場』は県警(神奈川県警)、『踊る大捜査線』シリーズは所轄署、『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』は交番の警察官が主人公である。

 分かりやすく上から下へと連なる日本の警察組織に対して、アメリカの警察組織はそれぞれが独立し、独自の管轄を持っている。大雑把には下記が主だった組織である。

・自治体警察
・郡警察
・州警察
・FBI(連邦捜査局:Federal Bureau of Investigation)

 日本の都道府県に対して、アメリカの行政区分は国→州(state)→郡(county)→市(city)などの各自治体、である。そのほかに、どこにも属さない首都ワシントンD.C(D.CはDistrict of Columbia=コロンビア特別区の略称)、定住海外領土のグアム、プエルトリコ、アメリカ領ヴァージン諸島、アメリカ領サモア、北マリアナ諸島、先住民族(ネイティヴ・アメリカン、インディアン)自治区などは各自が独自の警察組織を持っている。基本的には地域の事件は各自治体警察、各自治体の管轄地域を跨いで事件が起きると郡警察、郡警察の管轄地域を跨いで事件が起きると州警察、州を跨いで事件が起きるとFBIの出番になる。

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