50年前の小説、有吉佐和子『青い壺』令和の時代になぜベストセラーに? 担当編集者に聞くヒットの背景

累計52刷、64万部を突破

 『青い壺』は、無名の陶芸家が生んだ青磁の壺が売られ贈られ盗まれ、転々と変わる持ち主とその周囲の人間模様が描かれた13編からなる連作短編集だ。当たり前だが、新聞広告をうち、テレビで紹介されたからと言って簡単に小説が売れる訳ではない。では本作のどんなところが現代の読者に響いたのだろうか。

 「一つは、有吉佐和子という一流の作家が持つ、世の中に対する視線の凄さと文章の力だと思います。今に通じる家父長制やフェミニズムに触れる内容もありますが、それは例えば「女性差別に憤る」というようなことではなくて、もっと高い位置から俯瞰してるし、冷静。そのフラットな人間観とさらりと乾いた文体、自然と乗せられてしまう見事なリズムの文章、つまり『小説の力』が時代や老若男女問わず、読者に響くんじゃないかと思います」

 また、有吉佐和子の小説の凄さは「エンタメ性」の高さだと山口氏は言う。

「『青い壺』13話のうちどこかには必ず、読者それぞれの悩みと重なるシーンや、知ってる人とそっくりな人物が登場したりします。

『昭和の主婦たちの話し言葉がうちの母親ソックリだから忘れられない』とか『会社人間が定年後に壊れる話が怖すぎた』『70オーバーの女性たちの京都旅行は身につまされて笑った』など、一話一話に鮮やかな工夫があってそれが心に残り「あれってどう思った?」と、人と話し合いたくなる。読みだしたら止まらない絶対的エンタメ作品なので、人にも薦めやすいみたいです」(山口氏)

 『青い壺』は「定年退職した夫がずっと家にいて嫌だなあ」(第2話)というような、女性の本音も多く描かれているため女性読者の方が多いのではないだろうか。しかし、男性が読んでも全く嫌な気分にならず、むしろ男性だからこそ楽しめるシーンもあるだろう。ちなみに筆者(男性)は2話・5話・10話がお気に入りだ。

 昨年12月には10万部もの増刷をし、 累計52刷、64万部を突破。今後ますます話題になることが予想される『青い壺』をこの機会に是非とも手に取り、家族・友人らと語りあうのはどうだろう。

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