ソニー、KADOKAWAの筆頭株主に ITジャーナリスト西田宗千佳氏に聞く資本業務提携の狙い
■ソニーとKADOKAWAが協業へ
ゲームのほか映画事業などを手掛けるソニーと、出版業界最大手で漫画・アニメの豊富なコンテンツを抱えるKADOKAWAが資本業務提携を行うことで合意した。ソニーは2025年1月にKADOKAWAの株を、第三者割当を通じて約500億円で取得。ソニーはKADOKAWAの株を約10%保有する筆頭株主となる見込みだ。
今回の資本業務提携について、日本の漫画・アニメファンの関心も高まっている。ソニーがコンテンツビジネスに参画することで、KADOKAWAが抱える有料コンテンツの世界展開が可能になるのではないかと、様々な期待が寄せられている。今回の資本業務提携にはどのような狙いがあるのか。IT業界などにも精通するジャーナリストの西田宗千佳氏の見解を聞いた。
■資本業務提携の意味と狙い
――ソニーのKADOKAWAとの資本業務提携を、西田さんは率直にどう考えていますか。
西田:当初は買収と伝えられていましたが、実際にはトータルで約10%の株式取得となりました。あくまでも資本業務提携となりますが、興味深い事例と捉えています。
――両社が資本業務提携に至った背景はどんなものがあるのでしょうか。
西田:今回の資本業務提携は、ソニーよりもKADODAWAにとってメリットが大きいとみています。というのも、KADOKAWAは安定的な大株主が減っていて、創業家の角川家のほか、川上量生さんなどの出資比率が下がっていました。いわば10%程度を取得するだけで筆頭株主になれるような状況ですから、ともすれば他国の企業が買収できる状態にあったわけです。実際問題として、中国などの企業からKADOKAWA買収の動きがあったのは事実ですからね。
――日本を代表するエンタメ企業が、中国企業の傘下に収まる可能性もあったと。
西田:現在、ホンダと日産自動車が経営統合に向けて協議していると報じられていますが、これも以前から、台湾の鴻海精密工業が日産の株式を取得し、買収するという話が出ていました。そこで、日本国内で手を打とう、経営統合して価値を維持しましょうという動きが生まれたといえます。ソニーとKADODAWAの事例も、日本の文化系の企業が買収されることを避けるべく、日本国内で出資が可能で、しかも業務内容的に関連性が強いソニーが名乗りを上げたとみています。
――今回の資本業務提携は早くから想定されていたことなのでしょうか。
西田:ソニーからKADOKAWAへの出資は想定できる話でした。コンテンツビジネスなどでの連携が考えられますからね。しかし、ソニー側にはあまりメリットがないと感じている人は多いようです。もちろんソニーは、KADOKAWAが抱えるコンテンツは魅力的だと考えてはいるでしょう。ただ、あらゆるコンテンツを全部カバーできるわけではありませんから、あくまでもKADOKAWAを“ワンオブゼム”と考えているのではないでしょうか。
■色々な人の目に触れることに意義がある
――KADOKAWAが抱えるコンテンツを優先的に使えることには、ソニーにとって魅力があるように感じますが、どうなのでしょうか。
西田:2000年代はコンテンツの独占に大きな価値がありました。昔はパッケージに価値があったので、特定の場所だけで独占的に販売すればするほど、利益が最大化されたのです。ところが、今はむしろ露出を増やし、たくさんの人の目に触れて共有されることに価値があり、コンテンツを一社が独占的に取得することにはメリットがありません。
――西田さんが指摘するように、ひと昔前は、買収したコンテンツを企業が独占使用して利益を上げるスタイルがありました。現在は考え方が変わってきているのでしょうか。
西田:企業間の関係を強化することは有効ですが、独占してしまうと、かえってビジネスの可能性が狭くなるという考え方が広がっています。今の時代、仮にソニーが傘下においたKADOKAWA系列の企業のゲームやアニメを、ソニーのプラットフォームだけで出してしまうと、かえってユーザー数が減ってしまう恐れがあります。ゲームをプレステ限定で配信したら、それまでパソコンで遊んでいたファンが離れかねません。それは得策ではないでしょう。
――確かに、独占によってユーザーの裾野が狭まってしまいそうです。
西田:今回の資本業務提携は外資に買われてしまうことを避けるため、日本の企業同士で連携を強めたいというKADOKAWA側の事情が大きいといえます。そのため、情報を出すタイミングやプロモーションなどでソニーが優先されることはあるかもしれませんが、KADOKAWAがソニーの言うことを絶対に聞かないといけないような関係にはならないとみています。
――今回の資本業務提携によって、KADOKAWAの制作したゲームがソニーに優先的に配信されることがあっても、その1ヶ月後に他社にも配信されるといった具合に、柔軟な関係になりそうですね。
西田:ソニーをはじめ、日本企業はGoogleやAppleのようなプラットフォームも作ろうと思っていましたが、結果的に失敗してしまいました。現在、ソニーはそういった企業にコンテンツを提供する側であり、全員にいい顔をしています。そんな状態を今後も維持するための業務資本提携といえるのでしょうないでしょうか。
■コンテンツ産業の未来はどうなる
――日本のコンテンツビジネスは成長していきそうでしょうか。
西田:コンテンツ自身の伸び代はあると思います。なぜ、日本のコンテンツが今になって急速に広がっているのかと言えば、現在は以前とは比べ物にならないほど、世界に向けて発信するプラットフォームが発達したためです。確かに、1970年代の東宝や東映は海外にアニメや映画を売っていました。しかし、そのためには海外に行って海外で営業して売らないといけませんでした。
――以前は、わざわざ海外で営業ができる体力がある企業でなければ、販路拡大が難しかったのですね。
西田:今はコンテンツを作ればNetflixで配信できる時代です。大企業でなくても世界に向けて発信することができる。よくNetflix を経由すると外資にお金を持っていかれるという人がいますが、むしろ、そういったプラットフォームを利用してやるくらいの気概がいいと思います。営業力を持たない企業もパートナーと組めば、海外に向けて売れるのですから、歓迎すべきではないでしょうか。
――今後、日本のコンテンツビジネスにとってライバルはどこの国になるのでしょうか。
西田:ライバルは韓国ですね。韓国は日本の人口の3分の1なので、国内だけで消費しても大きな利益を上げるには限界がありました。そのため、10数年前から世界にコンテンツを売ってきたのです。現在、日本が考えていることを先んじて成功してきた国といえます。今回の業務提携によってより資金を増やしたことでソニーやKADOKAWAの生み出すコンテンツがより世界に広がるきっかけになることを期待しています。