アニメに使われていたアナログ技術の復活に世界が注目? 六方画材店・店主に聞く、「セル画」の奥深い魅力

事務所にはセル画用の絵の具が多数並ぶ。

アニメの研究者からも需要がある

――販路の拡大はどうでしょうか。

高橋:本来なら産業需要はなく、ゆえに広告もまったく出していないのですが、それでも昨今のレトロブームの影響もあり、TVアニメのエンディングに実際に使っていただいたという話題性などで、徐々に認知度が上がっているようです。特に、今年入ってからは顕著ですね。販売していくなかで、コミュニティも広がったのだと思います。

――どんな目的で購入する人が多いのでしょう。

高橋:いろいろな方に購入していただいていますが、わかりやすいところではアニメの研究をしている大学の方。アニメ研究が学界でもトレンドになっている影響ですね。また、アニメ会社で昔、仕上げスタッフをやっていた方が、趣味の一環でもう一度塗ってみたいと購入するパターンもあります。あとは、セル画などをアートとして考えて制作されている方や、美大に通っている現役の学生さんの需要もあります。

――かなり幅広いですね。セル画は昨今、海外からも注目される機会が増えたと思いますが、海外の反応はどうですか。

高橋:海外からのコンタクトは凄く多いです。日本語の発信しかしていないのに、フランス、アメリカ、イギリス、メキシコ、世界各国から問い合わせがあるんですよ。ただ、今のところまだお断りをしている状態です。製造者としては海外の法律上の問題もあるし、贋作の製造に使われる可能性も払拭できない。当面は国内の販売に留めようと考えています。

絵の具は現在は国内向けに販売しているが、海外からの注目度も高いという。

撮影台を復活させてアニメを制作したい

――今後、高橋さんがどんな事業を展開していく計画があるのか、興味津々です。

高橋:まだ製品化には至っていないのですが、セル画を使ってアニメを撮るための簡易な“撮影台”も制作しようとしています。撮影台は、撮影部があったアニメスタジオには必ずありましたが、とても大きく維持も大変なので、現在はほとんど残っていません。海外でも同様と聞いています。

――撮影台が復活したら、セル画でアニメをゼロから作れるようになりますね。

高橋:おっしゃる通りで、撮影台が完成すれば、若いクリエイターがセルアニメを作れる環境が整います。今はセル画を制作しても、一枚の絵として額装して飾ることしかできません。ところが、撮影台があれば絵に命を吹き込むことができるのです。2025年には、アニメ作家の作品制作に参加して、1本新作を撮ってみようと考えています。

――夢が膨らみますね。

高橋:あと、セル画のワークショップを実施したいです。これはビジネス的な観点では主力になると思っているのですが、日本を訪れた外国人向けに実施したい。特に、聖地巡礼に訪れている外国人、日本のアニメが好きで日本に足を運ばれる方に向けて発信したいですね。上手くいけば、人気のアクティビティになる可能性があります。

――セル画制作を体験できるなんて、日本を訪問した記念になりますし、人気が出そうです。

高橋:この取り組みの肝は、版権元企業だけでなく、中間制作物の商品化権を有するアニメスタジオの貴重な収益源となり得る点です。つまり、体験型の観光によってアニメ制作現場の持続可能性が増します。協力を仰いで、2025年の後半くらいには開催したいですね。

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