東宝 ニューヨークのアニメ配給会社「GKIDS」子会社化に業界衝撃ーー経営戦略が示すアニメへの“本気度”

「東宝作品しか配給しなくなる?」子会社化でささやかれる不安

 GKIDSの子会社化も同じように、優れた北米の配給網を居抜きで手に入れたといって安心して良いかは難しいところだ。東宝を通して作品を供給されるようになり、強力な作品を次々に投入できることは経営にはプラスだが、GKIDSが東宝系の作品にばかり力を入れるようになることを心配する声も、一部にはあがってきている。

 GKIDSはアカデミー賞にノミネートされたカートゥーン・サルーンの『ブレンダとケルズの秘密』や『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』といった、日本のアニメとはテイストが違う名作を北米の市場に送り出し、アニメ好きを喜ばせつつそうした作品が世界に知られる機会を作り、制作会社を支えてアニメ文化を盛り立ててきた。こうした活動によって北米で敬愛される会社になったにも関わらず、ビジネス一辺倒で親会社が望む作品ばかりを取り扱うようになった時、どのような反応が出るかがまだ見えない。東宝が絡んでいない日本の作品を、GKIDSが取り扱わなくなるのではといった声もSNSには上がっている。

 GKIDSを作り育て大きくしてきた経営陣が、一部ではなく全株式を東宝に預けた以上は、あまねく優れたアニメを取り扱うGKIDSのスタンスを、見守ってくれると信頼した現れとみることもできる。現状の経営陣がそのまま留まり運営にあたっている間は、過去から踏襲されたカルチャーが維持される可能性が高い。

 それでも企業は変わる。株主の要求なり経営環境の変化なりが企業のカルチャーを壊してしまった例は過去にも数多ある。東宝はどうか。阪急電鉄を創業し、宝塚歌劇団を生み出した実業家の小林一三が、1932年に東京に劇場を作って演劇界を盛り上げ、映画にも参入して数々の名作を送り出すようになってからまもなく100年。「TOHO VISION 2032」の完成の年に向かって進んでいる間は、エンターテインメントの精神を失わず、大勢を楽しませる作品を作り送り出していくと信じるなら、今しばらくは大丈夫だと思いたい。

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