『誰が勇者を殺したか』などの話題作で2024年ラノベ界を席巻 駄犬の作品に駄作なし!

 名前に「駄」の字は入っても、書くものに駄作はひとつもない作家が駄犬だ。2023年9月29日刊行の『誰が勇者を殺したか』(角川スニーカー文庫)が魔王を倒した勇者パーティーの中で、勇者だけが帰還しなかった謎に迫るストーリーで話題になった後も、面白い作品を刊行し続けている。そしてこの8月1日、完璧にまとまっていた『誰が勇者を殺したか』に意外な方向から“続編”を投入し、前後して新作も刊行とノリにノった活躍ぶりを見せている。

 魔王が勇者のパーティーによって倒されてから4年。王国はメンバーでひとり帰還しなかった勇者アレスの偉業を記録した文献を編纂する事業を立ち上げる。2023年9月29日に出た『誰が勇者を殺したか』はそこから、メンバーだった騎士のレオン、聖女のマリア、賢者のソロンからアレスとはどのような人物だったのかを聞き進めていくストーリーが始まるが、なぜか全員がアレスの死の詳細について言葉を濁す。

 浮かぶ疑問。どうしてアレスは死んだのか? 魔王との戦いの中で命を失ったのか。もしかしたら仲間の誰かが手を下したのか。剣と魔法のファンタジーにミステリーとしての興味が加わるが、その真相に迫る展開の中でズレのようなものが浮かび上がってくる。

 預言者によって勇者になる運命を定められていたにも関わらず、王都に来たのは剣の腕前もそこそこで魔法も使えない冴えない男だった。マリアからはバカにされてパシリとしてこき使われるが、そこから必死に食らいついて魔法を学び、剣の腕を磨きつつ指揮官としての能力も高め、最後に魔王を倒してのける。

 結果としては立派に勇者だった。それでも生まれながらの英雄といった才気には乏しかった奇妙なズレが埋まった時、読者は予想もしていなかった背景を突きつけられて何度目かの驚きを味わうことになる。そして、すべてが明らかとなってホッコリとするエンディングを迎えて完結する。続編が作られるような余韻は見て取れない。

 漫画やアニメで人気の『葬送のフリーレン』は、魔王を倒した勇者パーティーの中に長命種のエルフを置くことで、魔王の残党狩りを進めつつ勇者たちの思いを受け継ぐ新たなストーリーを作り出した。「だれゆう」はどうするのか? 注目の中で登場した『誰が勇者を殺したか 預言の書』(角川スニーカー文庫)は、まだ世界が魔王によって苦しめられていた時代を舞台に、レナードという冒険者が仲間を引き連れ暴れ回るストーリーが綴られる。

 預言者から勇者にならないかと誘われても受けず、苦しんでいる人を助ける時も大金をまきあげる強欲ぶりで、悪評だけが広まっている。そんなレナードと仲間たちの冒険のどこが続編なのか? ここでは、読み終えればすべて理解できて、物語の世界観に厚みが増すとだけ言っておく。付け加えるなら、偽悪的な振る舞いの中にスッと通った強い意思があって、そこにカッコ良さを見ることができる作品だ。

 こうした偽悪的なカッコ良さは、3月1日発売の『追放された商人は金の力で世界を救う』(PASH!文庫)でも堪能できる。主人公で商人のトラオは、勇者と僧侶と魔法使いの仲間から魔王討伐を目指すパーティーを追い出されてしまう。ケチで中古の装備しか買い与えなかったり、仲間の金で別のパーティーを下働きに使っていたりしたことが問題視された。勇者たちはトラオを置いて魔王討伐に向かい、トラオは面倒を見ていたパーティーに合流して独自に魔王討伐を目指そうとする。

 ここで使った方法がまた勇者パーティーらしさのカケラもないもので、金を湯水のように注いで人も装備も集めまくる。鍛え上げた技術と勇気で戦う勇者と違い、物量で押し切ろうとするところは一面で合理的と言えなくもない。新しい時代にはそういう挑み方もあるのかもと理解はできるが、納得はしづらかった状況が途中で一変する。トラオの思いと最初の仲間たちの願いが合わさったところに生まれた奇跡があったのだと分かって泣けてくる。

 最強にして善良な英雄といった勇者のステレオタイプなイメージを逆手に取って、努力だったり偽悪だったりといった要素を持たせて意外性を感じさせる。そんな駄犬ならではのズラし方は、「だれゆう」と前後する2023年10月に第1巻が出た『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』(GCN文庫)でも存分に発揮されている。

 主人公はファルーン王国の第1王子として生まれたマルスだが、継母によって疎まれ食事に毒を盛られるようになったため、こっそり城の外に出てモンスターを狩りその肉を食べて飢えをしのいでいた。モンスターの肉にも毒はあるが、食事に盛られた毒ほどは強くはなく、おまけにモンスターの強さも身につくようになって、少しずつ丈夫になっていった。そんなマルスを見込んだ『剣聖の赤鬼』カサンドラから、望んでもいない弟子にされて徹底的にしごかれる。

 毒にならされ負荷もかけられた状態で鍛錬に励み、暗殺者を返り討ちにできる力を手に入れたマルスは、さらに力を付けるため、ゼロスという偽名を使ってならず者たちと訓練するようになる。それが結社となり、国王に退位を迫るだけの勢力に発展していく中で、マルスは国王の座を手に入れ、国力を高めて近隣諸国の脅威となっていく。

 こうした栄達がマルス自身の意思というよりは、ほとんど成り行きで達成されていく展開が、「モン肉」シリーズの特徴であり面白さだ。モンスターの肉も他に食べるものがなかったから食べただけ。それが、ならず者たちのトップとなり国王となって世界と対峙する中で、モンスターの肉だけを生で食べることが絶対といった空気になっていく。調理された美味しい肉が食べたいと、8月21日発売の『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件3』(GCN文庫)で近隣国をお忍びで訪れるが、正体がバレて名物の焼き肉を口にできず残念がる。

 暴虐でも残酷でもないマルスの意思に反して、その威光は近隣国に広がり密かに支持する者たちが増えていく。ファルーン王国を脅威に感じて攻めてきた国々を打ち倒す力となり、マルスの麾下に加わっていく。魔導師のフラウや近隣国の王の妹だったカーミラ、双剣使いのシーラに師匠のカサンドラまで加わったマルスの妻たちも、抑えるどころかイケイケといったスタンス。マルスに気の休まる時間はない。

 そこにマーヴェ教国から聖女候補のマリアがやって来て、緊張緩和が図られたかというとこのマリアが見かけとはまるで違ったピーキーさを見せ始める。マルス以外は全員異常。そんなファルーン王国の躍進で、激変していく世界はこの先どうなってしまうのか? 「だれゆう」とは違って果てしないエスカレーションが可能なだけに、想像を超えてくる展開を期待したくなる。

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