寺内康太郎×大森時生『フェイクドキュメンタリーQ』対談 「本で読んだ後に映像を見ると、ショックを受ける」

Q独自の演出のこだわり

――そもそも、フェイクドキュメンタリーというジャンルはあったのでしょうか。

寺内:当時は『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』を出していた白石晃士さんが1人で牽引していて、ファンを抱えていました。

大森:最近は「フェイクドキュメンタリー」という言葉の意味が拡張していて、当時の定義と違うものもフェイクドキュメンタリーと呼ばれています。僕のイメージではリアルを突き詰めるというより、リアルの中からちょっとずつずらした若干ファンタジー寄りの世界をリアルに描く映像が多かったかな。

寺内:白石さんの作品では、カメラを回している理由が圧倒的に明確なんです。たまたま回っていたとかは絶対にない。都合のいい映像が一切ない。ドキュメンタリー視点を徹底的にこだわっている事に感銘を受けました。

――対して、Qが映像でこだわっている点は何でしょうか。

寺内:映像と言うよりも演出にこだわっています。基本的に画角なんてなんでもいいと思っています(笑)。僕はカメラワークがどうこうとか、画角がどうこうという優先順位を低くしているのが、かえってリアルになると思っています。わかりやすく言えば、きれいに撮らないのがポイントなのです。「Mother」も、ホームビデオ感を出していることが、リアルに感じてもらえる要因と思います。あと、“無意識”を創るために、演者にどのタイミングで、どの場所でインタビューするかは決めずに撮影します。

大森:「TXQ FICTION/イシナガキクエを探しています」では、緊迫したシーンで、壁にディズニーのポスターが貼ってありましたよね。あれ、普通はテレビ的に考えたら版権が面倒だから外すんですよ(笑)。でも、留守録の音を聞いているとき、背景がディズニーという場面はあると思う。これがQの映像の醍醐味ですよね。丁寧に段取りして整えた時と、流れで撮ったときのリアリティの差は大きいし、そういう映像を撮ろうと頑張っていたら、カメラに犬が近づいてきたりするんでしょうね。

イシナガキクエを探しています(1) / TXQ FICTION

リアルすぎる映像はこう作る

――ディズニーのポスターの話がありましたが、Qの映像に出てくる家の中はかなりリアリティがあります。ほかにも、登場する写真、子どもが書いた文字、チラシ、ニュース映像など、何をとっても実際にありそうで、小道具の作り込みが凄いと感じました。

寺内:小道具は努力して作っています(笑)。僕が1人で作っているんですよ。あと、ロケ地も丹念に探していくと意外といいところがあるのですが、映画だと時間的な条件面で借りれない場所が多い。でも最高のロケーションだったりします。このジレンマは映画をやっているときに感じていたんですよ。ところが、フェイクドキュメンタリーならやりようによっては3時間で撮り切れるので、すき間を縫うように撮影すれば、使わせてもらえることがあるのです。

――いわゆる一般的な映画では、機材の設置と撤収だけでも3時間以上かかることもザラですからね。

寺内:手段の方が偉くなってしまい、みんなが時間通りにきちんと仕事をするために目的を変えないといけなくなっている。撮りたい場所を妥協しなくていいのは、フェイクドキュメンタリーの強みですね。

――あと、私はネットで怪文書を見るのが好きなのですが、Qの映像に出てくる怪文書はとにかく怖いです。文字も文体も、実際にあり得そうといいますか……

寺内:それは現実の事件からヒントというか、影響を受けています。僕は昔から未解決事件などが好きですし。未解決事件なんか、原因がわからないのがいっぱいありますよね。

大森:僕はリアルな事件はそこまで興味を持てなくて、物語の方が好きかもしれません。リアルな事件は怖いので(笑)、創られたもののドラマ性に惹かれます。事件のWikipediaなどはつい読んじゃいますが、深追いはしないかもしれません。ただ、Qはドキュメンタリーの手法で撮られているのに、何よりもフィクションなのが凄い。普通のフィクションよりも、フィクションとしての奥行きを感じます。

――その奥行きが得られるのは、どんなところからなのでしょうね。

大森:Qの映像は、作中で真実を積み重ねていくのですが、途中でひとつまみ、フィクションの要素が入っている。「隠しリンク - Hidden Link」がその筆頭ですね。途中まではリンクを作っているほうに不気味さを感じるし、キムラヒサコって誰だろうという点に関心がいくのですが、途中からリンクを一生押し続けている人に狂気を感じるようになります。この視点がひっくり返る感じ、グラッとなる感じが、フェイクドキュメンタリーならではの面白さですね。

オチこそがQの神髄?

――Qの映像を見ていると、オチが絶妙だと思うんですよ。オチがついているようでついていない、何とも言えない不思議な終わり方も特徴です。

寺内:割とそれありきで考えていて。オチに辿り着くために前段階をどう作るかにこだわっています。正直、オチの前までの展開って、オリジナリティはそれほどないと思っているのです。自分たちの腕の見せ所は、オチまでどうもっていけるかにあります。

――あのオチの後味だからこそ、考察班が盛り上がるのだと思います。

寺内:ここまで考察されると、少し窮屈な部分もありますけれどね(笑)。Qの映像を見ている人も、考察班の考察と合わせて楽しめばより世界観に入り込める。考察班は補足してくれるからこんなにありがたいことはないのですが、作っている側としては、次に何を言われるかハラハラしている部分はあります。

大森:Qの考察班からは異常なほどの熱気を感じますし、コメント欄を見てもレベルが違いますよね。1フレーズずつ見ている人もいるようですし。作中の真実を正確に追いたいと思っているんでしょうね。Qは本当っぽさの強度が高く、真実の中の真実を見出したいと思えるのが、狂気的ともいえる考察が生まれる要因だと思います。

全部の映像に思い入れがある

――双葉社さんから出版に至った本は、デザインやレイアウトもQにぴったりな独特な雰囲気がありますし、映像を視聴できるQRコードを入れるアイディアも斬新です。

寺内:メンバーはレイアウトなどに一切口出しをしていないんですよ(笑)。いろいろなアイディアは双葉社さんの方から提案していただきました。僕はすべて新作で出したいというエゴがありましたが、それでは当然売りにくいようで、実際にある映像をもとに新作も載せる構成を提案いただきました。書籍化する事でより面白いエピソードを、たくさん入れました。

大森:本と映像が補完し合っているという言葉がまさにそうだと思っています。映像には映像しかない迫力がある。もし、本に書いている言葉をすべて言っていたら、映像の面白さが損なわれてしまうでしょう。映像は映像ならではの余白があり、俳優さんの演技をじっくり見せることで不気味さが生まれているのです。一方で、本は自分でページをめくりながら、作品の世界に入っていくことができる。これで得られる不気味さもあるし、その後に映像を見るともう一味楽しめる。本当に面白い補完関係ですよね。映像と本が完全に一緒でもないし、別物でもない。今までにない作りです。

――今回収録された6本にはどんな思い入れがありますか。

寺内:うーん、全部思い入れがあるのですが……好きな作品を強いて挙げるなら「【行方不明】この人知りませんか - The Portrait」と、「封印されたフェイクドキュメンタリー - Cursed Video」の2本かな。

大森:僕は、本に「池澤葉子失踪事件」のタイトルで収録されている、「Mother」が一番印象深いですね。「Mother」はちょうど僕は日々思っている「考察ってどうなのかな」という気持ちと、リンクするところがありました。後味も悪いので印象深いです。考察を現実世界に持ち込むと危険性があるよねという話を、Qが言うからこそ面白いと思います。本で読んだ後に映像を見ると、重たいパンチを喰らったみたいなショックを受けるかと。映像と本の違いがこんなふうに出てくるんだと感じました。

――世は空前のホラーブームとなっています。動画もたくさん上がっていますし、書店にはホラー関連の書籍が並んでいますね。そんな中で今後、Qはどんな挑戦をしていきたいと考えていますか。

寺内:おっしゃるように、現代はホラーブームといわれ、動画も本もたくさん出ています。その中で、僕らは恵まれた環境でやっているという自覚があります。今日ここにいる大森さんは、出ていない雑誌がないくらい人気ですよ(笑)。そんな大森さんとお仕事ができて嬉しいし、今後もまた一緒に仕事をする構想もあります。今後もより新しい挑戦をしたいですね。そして、いつか来るであろうホラーブームの終わりまで、責任を持ってやろうと思っています。Jホラーを浸透させ、面白さを継続できるようなところまで取り組んでいきたいですね。きっと大森さんが、魅力的な道筋を考えてくれていると思いますが(笑)。

大森:僕は寺内さんと同じく、ブームの終わり方に興味があります。さすがに再来年くらいには、これほどのホラーブームは終わり、次はSFが流行るんじゃないかと思ったりもします。そのときは、ホラーよりも遠いところに行きたくなるのかな。僕自身、ブームを牽引しているという自覚はないですし、ホラーブームをどうこうしたいという考えはありません。それよりも、目の前にある作品を面白く、丁寧に作ることに力を注ぎたいですね。

■書籍情報
『フェイクドキュメンタリーQ』
著者:フェイクドキュメンタリーQ
価格:1540円
発売日:2024年7月25日
出版社:双葉社

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