『たぶん私たち一生最強』小林早代子 インタビュー “女4人のルームシェア”の先にある視点

ルームシェアの「その先」を描きたかった

子育ての可能性を考えたときに、4人いればいい感じに家庭を回していけるのではないかと思った

――物語でルームシェアをする人たちを2人ではなく4人にしたのはなぜだったのでしょう。

小林:子育ての可能性を考えたときに2人では厳しいと思ったから、ですね。私がルームシェアをしているとき、2人とも忙しくてなかなか顔を合わせる時間がないことが続いて。大人2人だけでも、東京で働いて暮らしていくというのはこんなにも忙しいことなのに、子どもがいたらもっと大変なのではと思ったんです。3人でも、ちょっとしんどそうな気がした。4人いればみんなが自分の生活もある程度は大事にしつつ、子どもが中学受験するくらいの経済力も確保できて、いい感じに家庭を回していけるのでは、と。

――子どもが生まれるとなったとき、4人の間で月々2万のクラウドファンディングとして子育てに出資してほしい、リターンは結婚・出産抜きで4分の1だけ親になれる人生、という提案がなされるじゃないですか。ものすごくいいな、と思ってしまいました。「私は二口乗った!」と一人が言う感じも、清々しくて。

小林:男の人と夫婦にならなくてはできないことって、子どもをつくることくらいなんじゃないかと思ったんですよね。私自身、ルームシェアをしているときにもし女友達に子どもができて、結婚するつもりがないからこのまま一生一緒に暮らしてくれないかと言われたら、たぶん乗るだろうなと思いました。

 ただ、個人的には、タイトルほどの爽快感がある物語だとは思っていなくて。4人はそれぞれ人生の悩みを抱えているし、腹の底から自分たちが最強だとも思っていない。女だけの暮らしを、みんなに推奨したいわけでもない。でも、こうあらねばならない、と思い込んでいる人生に、ちょっとでも自由な視点をもてるような物語にできたらな、とは思っていました。

――4人で暮らし続けると決めたあとも、4人があまり型に縛られていないのもいいなと思いました。きっとそのつど、気を遣い合いながら、相談して決めているんだろうなということが、それこそ書かれていないけれど、伝わってきて。

小林:人とは違うルートを選んでしまった以上、迷うことができないプレッシャーというのもあると思うんですよね。あと、やっぱり、人と違うことをしていると、まわりに理由を説明しなくちゃいけないのが、けっこう面倒じゃないですか。

 先ほどの仮定の話でいえば、女友達と2人で子育てすることを具体的に想像してみたときに、まわりに説明しなくちゃいけないことを想像するだけでうんざりしました。その大変さも背負っていなきゃいけないという現実は描きつつ、それでも解散の道を選ばない4人であってほしいとは思っていました。

――ルームシェアものって、だいたい、最後は解散しますもんね。

小林:そしてそれぞれの道へ、というクライマックスが必ずといっていいほど、用意されていますよね。そういうエンディングも好きなんだけど、この小説では「その先」を描きたかった。読んでいる人だけでなく、私自身も「自分にはちょっとできないな」と思ってしまいそうなことを、やりぬく4人を描きたいなと。

――だからこそ、彼女たちは最強なんだと思います。そしてラストに、自分は彼女たちほど最強になれない、と思っている人の視点が描かれるのも、とてもよかったです。

小林:それなりに悩みがあるとはいえ、仕事があって、生活に困窮することがないどころか、一緒に暮らそうと思える3人の友達がいる時点で、けっこう全員が恵まれた人たちであるとは思ったんですよ。4人それぞれを通じて、20代後半の女性が直面する普遍的な悩みを描きたかったので、主人公たちにあまりにも悲劇的な生い立ちは付与しないというのは最初から決めていたけれど、読んでいる人たちがそれによって置いてきぼりになったらいやだなと。

 「小説だからできることだよね」では終わらせないためにも、ラストで「こういう生き方は自分には向いてないな」と感じるもう一人の視点を入れられたのはよかったなと思います。

――実は男の人を排除しているわけじゃないところも、すごくいいなと思いました。花乃子の元カレはちょっとあれでしたけど(笑)、百合子のセフレを通じて、男性には男性の抱えているものがあると感じられる瞬間も好きでした。

小林:そう言ってもらえたら、ほっとします。排除しているように読めちゃうかなあ、と個人的には思っていたので……。でも、4人は決して「男より女友達が好き」「恋愛より友情のほうが大事」というわけじゃないと私も思っていて。一生暮らすなら女友達のほうがいい、だけどそれはそれとして恋愛対象としての男も必要だし大好き、みたいなところは失いたくなかった。むしろ女友達が家を守ってくれているからこそ自由に恋愛できる面もあって、それはそれで一つの理想なんじゃないのかなと。

恋愛対象としての男性も必要だし大好き、みたいなところは失いたくなかった

――6年ぶりの単行本を出されて、今、どんなお気持ちですか?

小林:私自身、転職したり恋人と別れたり、20代後半の人生が慌ただしすぎたせいで時間がかかってしまったのですが、その七転八倒があったからこそ、この小説が生まれたのだと思えば、全部に意味があったのかなと思います。今回の作品では、自分と同年代のアラサー女性たちの人生について思う存分書き切ったので、次の作品では、もうちょっと爽やかな青春小説にもチャレンジしてみたいと思っています!

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