「ダイヤモンドの強みを再定義する」週刊ダイヤモンド編集長・浅島亮子のビジョンと3つの価値観を聞く

■老舗メディアを率いる史上初の女性編集長

「週刊ダイヤモンド」史上初の女性編集長に就任した浅島亮子氏

  経営者からビジネスパーソンを中心に幅広い読者を抱えている「週刊ダイヤモンド」。1913年に創刊された長い歴史をもつ経済専門誌において、史上初となる女性編集長に就任したのが浅島亮子氏である。

  浅島氏は2000年にダイヤモンド社に入社後、記者としてキャリアを重ね、2019年にはデジタル版のサブスク「ダイヤモンド・プレミアム」をスタートするなど、編集改革の旗手として同誌を支えてきた。

  「週刊ダイヤモンド」といえば忖度をしないメディアとして、真相に迫る記事をつくってきた。スクープを連発しネット上を騒がせることも少なくない。今回、「週刊ダイヤモンド」を率いる浅島氏にインタビュー。紙メディアとネットメディアの在り方について、示唆に富んだ話を聞いた。

■すべてのメディアがライバル

「週刊ダイヤモンド」は紙とwebメディアで展開する。棲み分けや記事内容について最適解をそれぞれの号ごとに検討・編集している。

――現在の「週刊ダイヤモンド」の発行部数から教えてください。

浅島:デジタルが約3万8000部、紙が約5万2000部弱ですから、併せて9万部を発行しています(ABC考査)。雑誌の部数は落ちていますが、デジタルの伸びが顕著で、7月に4万3000部を突破しました。弊誌は外部の記者や著名人に執筆を依頼することもありますが、原則として記事は内部スタッフで制作していて、記者は編集部内に32人います。

――週刊ダイヤモンドの特集は毎回魅力的です。後追い取材をするメディアも多いですし、似たような特集を組む雑誌もあります。そんな中で具体的なライバル誌などはありますか。
浅島:全部のメディアがライバルだと思っています。週刊ダイヤモンドは2019年6月末、デジタルのサブスクリプションサービスに参入して、やっと競争のスタートラインに立てたと思っています。経済分野の記事は出版社にとって魅力的な市場なんですね。ビジネスパーソンはある程度の富裕層であり、いい情報にはお金を出したいと思っている層ですから。

ーー雑誌不況と言われる中ですが、その中でも部数を伸ばすための施策があれば教えてください。

浅島:営業局と、特集のテーマなどを含めて綿密な会議を行っています。雑誌であれば売れた場所についても分析しており、この企業の特集なら大手町、トヨタの特集なら中部三県といった具合に、戦略的に書店の営業も仕掛けています。

――サブスクへの参入は、浅島さんが指揮をとったと聞いています。

浅島:私は後からプロジェクトに加わっただけで、改革を主導したのは現在の局長(前編集長)です。参入前は迷いもありました。しかし、当時は雑誌がどんどん売れなくなっていましたし、読者の平均年齢が60歳まで上がっていたのです。企業や産業を深掘りし、真相に迫った記事を出していくのが週刊ダイヤモンドの生命線だったはずなのに、そうした特集は現役のビジネスパーソン向けなので、シニア層には受けない。シニア層に雑誌を売るため、我々の強みではなかった特集をやっていた時期もあります。

――どのような企画だったのでしょうか。

浅島:ライフスタイル系、相続や金融商品などの特集ですね。我々の味付けでできる部分はあるにせよ、他社もやっているので差別化ができなかったのです。雑誌は売れず、編集会議がお通夜のようになってしまった時期がありました。

■ダイヤモンドの強みを再定義する

――しかしながら、試行錯誤したことは決して無駄ではなかったと思います。

浅島:そうですね。そうした時期を経たおかげで、サブスクに参入する際に、自分たちの存在意義を再定義することができました。わかったのは、我々の強みは企業・産業にフォーカスした記事であり、デジタルなら我々の記事を求めているロイヤルユーザーに届けば反応してもらえるのではないかと考えたことです。そうした、サブスクでは企業・産業の記事が復活しましたし、一社特集を改めてできるようになったのです。

――デジタルだからこそ、ダイヤモンドさんの強みが生きると。

浅島:長期間にわたって企業を取材・研究してきた記者がいるのが、圧倒的な強みです。そのため、社会や経済の激変があった時にでも付加価値を付けた独自のニュースを出せるのです。そこまでの体制を取れているメディアは少ないんですよ。どこにも書かれていないことを書けば、大々的なスクープでなくても読まれますからね。

――まさに好循環ですね。

浅島:デジタル化した2019年というのも、凄くいいタイミングでした。2020年にコロナ禍がはじまると、自粛ムードのなかで雑誌の売り場がなくなり、リモート主体の働き方も増えましたからね。コロナ禍は3年以上も続いたわけですから、参入のタイミングが遅れていたら……と考えると、恐ろしいです。

■紙とデジタルの棲み分け

紙媒体としての性質を活かすため、グラフやチャートが多用され保存性を高めた編集を徹底。

――紙とデジタルとの明確な棲み分けはあるのでしょうか。

浅島:現在は基本的に“デジタルファースト”で、デジタル優先で特集を組みます。デジタルで配信した3~4週間後に、アレンジされて雑誌に掲載される流れになります。しかし、そのまま転載するのではなく、記事の図解は雑誌のために新規に作っていますし、雑誌発売までのタイムラグがあるので補足の取材をします。雑誌の良さは、資料性や網羅性のパッケージの強さですからね。

――他誌で多いのは、紙版の雑誌の特集をデジタルで後から掲載するという流れですが、逆なのですね。デジタル主体で記事を作成するようになって、紙主体の頃と作り方が変わった部分はありますか。

浅島:デジタルで重視している仕掛けが3つあります。まず1つは、“惹きつけるタイトル”です。記事のUPに至るまで、タイトルの決定には3~4人が介在して考えます。2つめは、“次ページへの誘導見出し”です。1ページ目は無料で読ませて、次ページは有料にすることが多いのですが、そのハードルを越えるための見出しがとても大事なんです。3つめはその次ページ誘導見出しの前におかれた“リード”です。これを弊誌では“3点セット”と呼んでいます。

――読まれる記事を作るノウハウが確立されているのですね。

浅島:タイトルは、こうやれば読まれるという現在主流の鉄板パターンがあるんです。例えば、コンサル×年収×下剋上、などですね。同じコンテンツでもこうしたテクニックで読まれやすくなるパターンは多く、編集部でいつも情報共有しています。

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