世界的作家・安部公房の思策の数々が詰まった『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』

 世界的作家・安部公房の思策の数々が詰まった『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』(新潮文庫)が、8月28日(水)に発売される。果たして安部公房は何を考えていたのか。エッセイ、インタビュー、日記などを通して浮上する思想の根幹。2024年文庫新刊3作目となる本作は、ファン必読の一冊だ。

 本作は、永らく復刊が待ち望まれていた1992年発売の評論・エッセイ集『死に急ぐ鯨たち』(安部公房/新潮文庫)に、『安部公房全集028〔1984.4.11~1989.12〕』(新潮社)に収録されている「もぐら日記」「もぐら日記Ⅱ」「もぐら日記Ⅲ」を新たに追加した作品だ。

 想像不足からくる楽観主義へ警鐘を鳴らす「死に急ぐ鯨たち」、自身の創作を振り返るインタビュー「錨なき方舟の時代」、今話題の『百年の孤独』とガルシア・マルケスを語った談話「地球儀に住むガルシア・マルケス」、貴重な日常を綴る「もぐら日記」など……。多様な表現で国家、言語、儀式、芸術、科学を縦横に論じてゆく中で、1980年代に語られた言葉が、今なお社会の本質を射抜いていることに驚かされる。文学の最先端を走り続けた作家による思索の数々を堪能しよう。

 新潮社では今年の生誕100年を機に、新潮文庫より『飛ぶ男』、『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』(どちらも発売中)、『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』(8月28日発売)の3点を刊行する。また8月23日(金)より問題作にして代表作の1つ『箱男』の映画が公開される(監督:石井岳龍/出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市ほか)。本作のビジュアルが巻かれたフル帯バージョンの『箱男』(安部公房/新潮文庫)も7月末より各書店店頭で展開中なので、チェックしてみよう。

 他にもシネマヴェーラ渋谷で「生誕百年記念 シネアスト安部公房」(8月17日~8月13日)が開催決定。世界的な評価を集める勅使河原宏監督作『砂の女』や『他人の顔』などはもちろん、演劇『仔象は死んだ』の映像作品、アニメーション『詩人の生涯』、安部公房が監督した『時の崖』等々。安部公房が関わった映画作品をほぼ網羅したプログラムとなっている。さらに10月より神奈川近代文学館で、特別展「安部公房展――21世紀文学の基軸」(10月12日~12月8日)が開催。生誕100年を機に、再び盛り上がりを見せている安部公房。この機会に一読したい。

書籍データ

【タイトル】死に急ぐ鯨たち・もぐら日記
【著者名】安部公房
【発売日】8月28日(水)
【造本】文庫
【定価】935円(税込)
【ISBN】978-4-10-112127-7

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