【連載】速水健朗のこれはニュースではない:フェラーリとディズニーに学ぶ王国のつくり方

 テレビの次に「量産」。フィアット500の発売は、映画と同じ1957年。通称「NUOVA 500」(日本ではなじみの薄い呼び方)。映画でこの車種が映るのは、冒頭付近。レースシーンで実況者が口にしていた。ただ、それ以上の扱いではない。そもそも小排気量の量産車は、エンツォの美学とは真逆である。

 映画の中のエンツォの台詞で「リアエンジンは大きなパワーを生まない」とイギリスの自動車技術を批判した台詞があるが、当時のフィアット500もリアエンジンだ。当てこすっている台詞。現在は、フィアットとフェラーリは同じグループだから忖度して、イギリスの悪口になったのかもしれない。

 フィアット500の大成功からイタリアの高度経済成長が始まったと言われている。小型化と量産化と大衆化。どれもフェラーリが軽視した分野である。もう少し販売台数を増やせばと経営も立て直せると周囲は思っているが、エンツォにとって譲れない部分。

 大衆の時代(つまりテレビと量産)に押されるフェラーリは、王国の最後のときを迎えている。それでも虚勢を張るブランドビジネスを守り、王国を(愛人の)息子に継承しようとする話。

 王国は、国民が力を持ったことで一旦は滅びた。だけど王族はいくつも残っていて、ときおり国民が弱ると、表に登場してくる。冒頭で触れたディズニー一族だけではない。ケネディ家やトランプ家もいる。民主党がうまく対抗馬を出せないような場合では、旧王族が突然表に出てきて意見を言う。第47代アメリカ合衆国大統領がミッキーマウスだっていう展開でも、いまのアメリカであればおかしくない。ミッキーだったら「ようドナルド」って呼び捨てすることも可能だ。

◆ イベント情報
『これはニュースではない』刊行記念トークショー
出演者:速水健朗、箕輪厚介
日 時:2024年8月7日(水) 19時~
配信サービス:Zoomウェビナーにて配信
配信期間:2024年8月7日(水) 19時~2024年8月28日(水) 23時59分(アーカイブ視聴可)
参加対象者:blueprint book storeにて書籍『これはニュースではない』を購入した方

刊行記念トークショー配信チケット付き『これはニュースではない』は、blueprint book storeにて発売中→https://blueprintbookstore.com/items/66602b8d597398002e857307

■書籍情報
『これはニュースではない』
著者:速水健朗
発売日:2024年8月2日 ※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:本体2,500円(税込価格2,750円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:A5変/184頁
ISBN 978-4-909852-54-0 C0095

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