【書店ルポ】沼津駅 アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』聖地の本屋閉店に衝撃もーーアニメショップ奮闘

■アニメ聖地としての成功例

『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地として名高いJR沼津駅。駅の壁面には巨大な「イラストが掲示されている。数あるアニメの聖地ではイベントも継続して行われ、何かと話題が多い。行政の理解も大きく、アニメのまちおこしがもっとも成功している例といえるだろう。

 アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台になった静岡県沼津市は、日本各地にあるアニメの聖地ではもっとも知名度が高く、成功を収めている都市と言っていいだろう。記者はアニメの聖地を相当訪問しているのだが、沼津はとにかくいつ行ってもファンの姿が目に付く。

 沼津の最大の特徴として、アニメに対する行政や地元企業の理解が深いことが挙げられる。例えば、沼津市長の頼重秀一氏はアニメのイベントに多数出席してファンからも認知度が高いし、「つじ写真館」の峯知美氏のような町おこしのキーパーソンとなる人もいる。その影響もあってか、市内のいたるところにキャラのイラストを見ることができ、聖地を巡る醍醐味が感じられるのだ。

『ラブライブ!サンシャイン!!』の事実上のグッズ専門店のような趣がある「ゲーマーズ沼津店」。キャラクターの津島善子が看板娘となっている。

 アニメ終了後も新規の話題が尽きない。イベントが定期的に開催され、ご当地のグッズが続々と登場している。声優が沼津を訪れる機会も多いし、キャラクターの誕生日となれば、地元民が自発的に開催するイベントが開催されている。まるでキャラが地域住民の一因になるほど溶け込んでいる例は、極めて珍しいといえる。

■聖地だった書店閉店の衝撃

JR沼津駅前にある仲見世商店街のシンボルだった「マルサン書店仲見世店」は、コロナ騒動の最中に閉店になった。現在は移住相談などを受け付けるスペースがある。

 そんな沼津も、他の地方都市同様に、人口減少と中心市街地の空洞化には悩まされている。書店の閉店が相次いでおり、2023年には学園通りにあった「TSUTAYA沼津学園通り店」が閉店してしまった。そして、その前年、2022年に駅前のシンボルであった大型書店の「マルサン書店仲見世店」が閉店したのは、衝撃的な出来事であった。

  ここは『ラブライブ!サンシャイン!!』に登場する本好きの女の子、国木田花丸がよく通う書店という設定であり、作中にも登場した重要な聖地の一つであった。そして、地元民にとってもJR沼津駅前のシンボルと言える書店であったと、沼津出身・在住の江本典隆氏はこう語る。

 「『マルサン書店』は子どもの頃から通っていて、仲見世商店街のシンボリックな存在でしたから、閉店が決まった時は本当に驚きました。まさか、なくなるなんて夢にも思っていませんでしたから。今では沼津市内の大型書店といえば、市北部の商業施設「ららぽーと沼津」内にある『谷島屋 ららぽーと沼津店』、沼津駅北側の『マルサン書店 駅北店』、JR 沼津駅ビル内の『くまざわ書店 沼津店』しかない。

JR沼津駅の駅ビル、アントレには「くまざわ書店沼津店」があり、『ラブライブ!サンシャイン!!』の関連書籍のコーナーもある。

 もちろんファンにとっても、衝撃は計り知れないものがあった。「聖地で買う『ラブライブ』の本は特別感があった」と語るのは、熱心な『ラブライブ!サンシャイン!!』ファンで、好きが高じて沼津に移住したあっぷるπ氏である。マルサン書店の思い出をこう振り返る。

「何しろ、マルサン書店はアニメで出てきましたから、特別な付加価値がある本屋です。『ラブライブ!』の本だけでなく、パネルもあって、ラブライバーにとってはこんな本屋が欲しかったという夢のような空間。そもそも、仲見世商店街はカフェ、雑貨屋、スーツの店などもあって、歩いているだけで楽しい場所なんですよ。その中でも、マルサン書店は重要なピースであり、聖地巡りの際でも優先度が高い名所でした」

■ファンの想いにいかに応えるか

沼津の町おこしを盛り上げているつじ写真館の黒板アート。ファンを楽しませようと地元の人たちも一緒に楽しんでいるのが沼津の魅力。

 筆者が沼津を訪れるラブライバーに話を聞いていると、まるで沼津を第二の故郷のように感じている人が少なくない。つじ写真館の峯氏が話していたことであるが、東京でも購入できるものをわざわざ沼津で買い求める人がたくさんいるのだという。沼津を何度も訪れている、千葉県在住の藤井幸太氏はこう話す。

 「マルサン書店が仲見世商店街にあった時は、沼津へお金を落とすという名目でそこで購入していましたし、現在でも沼津に行った際は現地のゲーマーズやアニメイトで買い物をするようにしています。沼津の飲食店などで積極的に食事をするのは、ラブライバーの鉄板ですね。ところで、本に関することでは、去年発売された画集『Find our 沼津』の印刷が沼津にある図書印刷の工場で行われたことが記憶に新しいですね。本を通じて地元へ還元がされていくのは素晴らしいことと思います」

JR沼津駅前にある「アニメイト沼津店」。『ラブライブ!サンシャイン!!』の商品が多数並ぶ。

 アニメを使った町おこしが成功するかどうかは、あっぷるπ氏のような移住者、そして藤井氏のように何度も通い続けるファンの想いに、地元がどう応えるかにかかっていると言っても過言ではないだろう。そして、話を聞いていると、アニメファンにとっては書店の重要度は非常に高いこともわかる。おそらく、アニメファンが雑誌や本につぎ込む金額は、かなり大きいはずである。店主の裁量で関連書籍をいくらでも揃えることができ、町おこしを盛り上げることができるわけで、アニメの聖地には書店が必須と言っていいのではないだろうか。

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