東京には国宝・重要文化財の名建築がいっぱいーー街歩きがさらに楽しくなるガイド本の内容は?

■文化財の視点から街歩きを楽しめる一冊

赤レンガが印象的な東京駅の丸の内本屋は、2003年に重要文化財にも指定されている。

 世の中は建築ブームである。テレビ番組「美の巨人たち」ではたびたび建築に関する特集が組まれるし、先日も「東京建築祭」のように都内の名建築を見学できるイベントが開催された。建築巡りの魅力は、街歩きをしながら芸術鑑賞が楽しめる点である。一部の施設や観光寺院などを除けば、入館料が掛からないことも多い。

  特に東京は交通網が発達しているため、JRと地下鉄を乗り継げば、1日でかなりの数の建築を見て歩くことができる街である。そんな東京巡りに最適な一冊が刊行された。『TOKYO名建築案内 東京の国宝・重要文化財建築を網羅』(山内貴範/著、朝日新聞出版/刊)である。タイトル通り、東京にある国宝・重要文化財に指定された名建築を“網羅”した一冊だ。

『TOKYO名建築案内 東京の国宝・重要文化財建築を網羅』(山内貴範/著、朝日新聞出版/刊)

■意外に多い、東京の重要文化財

重要文化財の旧寛永寺五重塔。


 国宝というと京都や奈良のイメージがあるが、東京にも正福寺地蔵堂と旧東宮御所(迎賓館赤坂離宮)の2件の国宝建築があり、赤レンガの駅舎でおなじみの東京駅丸ノ内本屋など将来の国宝の有力候補といわれる建築も多い。戦後建築の金字塔といわれる代々木競技場などは、世界遺産に登録しようという運動も起こっている。

『TOKYO名建築案内 東京の国宝・重要文化財建築を網羅』の中面より

  本書でも触れられているように、東京の建築の特徴は明治時代以降の新しい建築で、建築史に残る傑作が多く残っている点であろう。旧東宮御所は明治以降の文化財で初めて国宝に指定された建築だし、明治政府が威信をかけて建設した日本銀行本店本館、法務省旧館などの明治時代の洋風建築をはじめ、髙島屋東京店や三越日本橋本店などの百貨店も重要文化財に指定されている。

  初詣の参拝客数で日本一の明治神宮の社殿や、隅田川に架かる橋の清洲橋、永代橋、勝鬨橋も重要文化財だ。上野は名建築が多く、クラウドファンディングが話題になった国立科学博物館本館(旧東京科学博物館本館)や東京国立博物館本館(旧東京帝室博物館本館)も重要文化財である。

■建築には都市の歴史が刻まれている

『TOKYO名建築案内 東京の国宝・重要文化財建築を網羅』の中面より

  誰もが知る東京の名所を、国宝・重要文化財という視点から見てみると、また違った一面が見えてくる。明治神宮の社殿などはなんと36棟が重要文化財であり、原宿駅から境内に入る際、鳥居の横に立っている制札や、その先に架かる石橋も指定されている。通り過ぎてしまう人も多いのではないかと思うが、これらは大正時代に建てられた創建当時の建築なのだ。

  江戸末期の戊辰戦争や廃仏毀釈の風潮で失われた建築も多いし、明治以降も東京は関東大震災や第二次世界大戦の空襲で焼失した例も少なくない。明治神宮も創建当時の社殿も多くが戦災で焼失したが、戦後に再建され、再建されたものも含めて重要文化財指定されている。

  苦難を乗り越えて現代まで伝わった建築には、東京の街の歴史が刻まれている。まさに歴史の生き証人といえよう。休日は本書を片手に、東京の建築巡りを楽しんでみるのも一興ではないだろうか。

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