OKAMOTO’Sオカモトショウ連載『月刊オカモトショウ』

オカモトショウが語る、『路傍のフジイ』の“浄化力“ 承認欲求から解放されたフジイは現代の新たなヒーロー像?

——流行りとか周囲の目線は関係なく、好きなものは好きって言えるのは、確かにフジイさん的かも。いまの社会に必要なスタンスですよね。

 そう思います。今って“承認欲求”がやばいじゃないですか。俺は個人のSNSのアカウントを持っていないんですけど、フラットな目でSNSを見てると(他者からの承認を求める気持ちは)病に近い状態だなと。そのことでメンタルをやられることも多いだろうし……。ただ、それはしょうがないというか、なかなか逃れられない気もするんですよ。

——そうですよね。

 仕事でSNSをやらなくちゃいけない人もいるだろうしね。昔から承認欲求ってあるし、それがエネルギーになることもあると思うんですよ。でもSNSが浸透してからはまったくフェーズが変わって。会社員だったら「今の役職は自分のポテンシャルに合ってない」とか「この年齢で結婚してないのはどうなんだ」とか、そういう思いに日々襲われて、削られてる人も多いんじゃないかなと。そういう状況があるからこそ、フジイさんみたいな主人公の漫画が出てきたのかもしれないですね。しかも、何かを提案したり、メッセージ性を押し出すこともないんですよ、このマンガ。「あなたが自分に満足できていないのは……」みたいな自己啓発的なところなければ、フジイさんはミニマリストでもないですからね。

——現代の新しいヒーロー像なのかも。

 そういう側面もあると思います。普通だったら共感しづらいキャラクターだし、主人公にもなりづらいと思うんだけど、「こういう生き方もいいよね」と共感してしまうというか。本当にフジイさんみたいな生活をしようと思ったら、いろいろと捨てなくちゃいけないものもあるだろうし、大変かもしれないけど(笑)。でも、さっき言ったみたいにフジイ的な人は意外と近くにいると思うし、学ぶことは多いと思いますね。お金もないだろうし、何も手に入れてないんだけど、それでも自分に満足している。周りの人をバカにすることもないし、自分を下げて防御することもない。そういうフラットさがあるのはすごくいいなと思います。『路傍のフジイ』を読むことで価値観が相対化されるというか、メンタルを上手くチューニングできるんじゃないかな。“心にフジイの物差しを”じゃないけど(笑)、承認欲求に疲れた現代人が読むべき漫画だと思いますね。この後の展開も楽しみです。恋愛の要素もなくはないので、フジイさんがもう少し幸せをかみしめたりするのかな……。

——まだ連載は始まったばかりですからね。3月1日に鳥山明先生が逝去され、世界中のファンが哀悼の意を示しました。ショウさんにとって鳥山作品はどんな存在でしたか?

 世代的には『ドラゴンボール』のアニメの再放送で知った人が多いんじゃないかな。アニメ『ドクタースランプ』のリメイク作も見ていたし、もちろん『ドラゴンクエスト』の影響もすごく大きくて。ゲームボーイの『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』もめっちゃやってましたね。あと、ドラゴンボールの完全版が発売されたとき、レイジ(オカモトレイジ/OKAMOTO’S)が2か月くらいその話しかしなかった(笑)。『Dr.スランプ』も『ドラゴンボール』もリアルタイムで読んでいた世代ではないけど、もちろんずっと楽しませてもらったし、絵柄だけでワクワクさせるのはすごいですよね。“MANGA”が世界に認められたのも『ドランゴンボール』があったからだし、手塚治虫、藤子不二雄の後はやっぱり鳥山明だなと。改めてじっくり読んでみようと思います。

『路傍のフジイ』を読みながら聴きたい音楽

荒井由実『MISSLIM』
荒井由実の2ndアルバム。「やさしさに包まれたなら」がフジイさんの日常にぴったりだと思います。演奏(松任谷正隆、細野晴臣、林立夫、鈴木茂のキャラメル・ママが中心)も素晴らしいです。

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