鳥山明『ドラゴンボール』の原点『騎竜少年』とは 名作誕生までの試行錯誤が見える貴重な内容を振り返る

 3月8日に鳥山明が急逝した。この衝撃的なニュースは世界中を驚かせているが、鳥山明の作品の中で不朽の名作といわれるのは『ドラゴンボール』であろう。そんな超人気作品の原点になった漫画があることをご存じだろうか。それは鳥山が描いた『騎竜少年』である。“騎竜少年”と書いて“ドラゴンボーイ”と読む。「フレッシュジャンプ」1983年8月号、および10月号に掲載された。

 そもそも鳥山は『Dr.スランプ』の連載中も、次なる作品を生み出すために短編や読切を描いては、構想を練っていた。漫画家にはよくあることが、読切でアイデアを試して人気が出れば連載へと持ち込むというパターンだ。

 鳥山の妻がジャッキー・チェンの映画を見ながら漫画を描いていることを、担当の鳥嶋和彦に打ち明けた。そこで鳥嶋はそれをもとに漫画を描くことを提案。かくしてできあがったのが中国を思わせる“仙の国”が舞台の冒険活劇、『騎竜少年』なのである。本作の人気が良かったため、設定などを練り直して生まれたのが『ドラゴンボール』というわけだ。

 見れば分かる通りなのだが『ドラゴンボール』の雰囲気そのものである。主人公の唐童(たんとん)は見た目がまさに初期の孫悟空である。しかも、扉には『ドラゴンボール』の神龍を思わせるような龍が描かれているではないか。作中に登場するご老子さまは筋斗雲に乗っているし、唐童が険しい山中で修行する光景も『ドラゴンボール』を彷彿とさせる場面だ。

 孫悟空と唐童の最大の違いは、唐童には翼が生えていることである。孫悟空はご存じのように、シッポが生えているのだ。こうした特徴的な要素を付け加えることで主人公らしさを生み出すのは、鳥山がキャラクターデザインで得意とするところだろう。

 一方で唐童の性格はかなり悟空に受け継がれている。女性についてほとんど知識がなく、ヒロインの華の国の姫さまの身体を勝手に触ったり、裸を見て驚く点もそっくりだ。作中には初期の『ドラゴンボール』にも多く見られたお色気シーンも健在だし、ウーロンを思わせる、変身できる妖怪が出てくる点も共通する。

 このように、『騎竜少年』は鳥山明が傑作を生み出すために、試行錯誤していた跡を見ることができる貴重な名作である。なお、この漫画は鳥山明の短編が掲載されている『鳥山明○(マル)作劇場』2巻で読むことができる。『ドラゴンボール』ファンも買い求めてみてはいかがだろう。鳥山明が亡くなってしまった今だからこそ初期の『ドラゴンボール』との比較をしながら読み進めたい。

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