【話題作試し読み】地域密着型のイカしたヒロインに注目『天津水市「がご」撲滅だより がごはん』が面白い

 多彩なヒーローが活躍する漫画が並ぶコミックレーベル「ヒーローズ」で連載中の『天津水市「がご」撲滅だより がごはん』が面白い。ゆるゆるとしながら刺激的な“地域密着型ニューヒロイン”たちが怪異に対峙する話題作だ。

 ある日突然、異形の怪異「がご」が大量発生するようになった天津水(あまつみず)市。人口流出を懸念した市長によってがご撲滅班、通称「がごはん」が発足されることに。厳正なるくじの結果、選ばれたのはすべて一般女性市民! 彼女たちに天津水市は救えるのかーー。

 妖怪漫画が好きな人も、日常系ギャグ漫画が好きな人も、ハマること間違いなしの本作。作者のゆのこショウ先生に制作背景を聞いた。(編集部)

『がごはん』第1話を試し読み(続きを読むには画像をクリック)


©ゆのこショウ / ヒーローズ

――『がごはん』は刺激的でゆるく、笑えて痛々しい、など多面的な魅力がある作品です。まず、「がご」と撲滅班、というモチーフ&物語の軸がどんな発想から、どんな経緯で出来上がったかを教えてください。

ゆのこショウ:本作は以前web上に投稿した『呪われし髪 長髪死闘編』という漫画と、小学館で掲載させていただいた『みいちゃんと蛇神さま』という読切作が前身となっています。他にもweb上で投稿した漫画の舞台のいくつかが同一の舞台だったので、一つの街を舞台にした群像劇的なものにできないか……という発想と、人々を困らせる怪物と戦うという軸を加えて発展させていきました(結果的に群像劇的な要素はなくなっていきましたが)。

 それと単純に地元が好きなので、ご迷惑にならない程度にその要素を入れ、そこに自分の好きな洋画作品の要素も入れて、今の形がつくられていった……と思います。

――世界観がおおらかで、牧歌的な地方都市の素敵さも感じられます。地元をモデルにされているんですね。

ゆのこショウ:色んな事件を起こしたり、キャラクターを活躍させやすくするため、架空の街を舞台としていますが、正直に言うと私の生まれである熊本県を舞台のモデルとしています。「天津水」という名称はもともと「雨」のことを指しますが、熊本県内のいくつかの地名を組み合わせたものでもあります。各話の背景は熊本県内の各地域をベースにしているのですが、あくまで架空の土地だということを表現するため、写真トレースといった技法はあまり使っていません。名産なども一部県内のものを参考にしています。

――どこか愛らしくもリアルに想像すると怖い、「がご」たちはどんな発想で生み出されているのでしょうか。

ゆのこショウ:作中でも触れていますが「がご」という言葉は「妖怪」「化け物」という意味を持つ方言です(私も祖父か祖母からその言葉を聞いただけなので、日常的に使ったことはありませんが……)。作中に出てくる怪異たちも「がご」という名称で呼ばれていますが、特徴や生態は自由に考えました。見た目が県の特産物だったり、名前が方言由来だったりと、一応ご当地感が出るよう工夫しています。

――そして、ある意味では「がご」よりヤバいと言ってよさそうな「撲滅班」の面々は、どのように生まれましたか。カッティングアーツの達人(店長)、“謎の能力”持ち(みい)、サイコパス(ひろみ)、期待の(?)ルーキー(ゆうちゃん)と、個性が爆発しています。それぞれのキャラクターとそのバランスについて、どんなことを考えて造形されたのでしょうか。

ゆのこショウ:以前web上に投稿した漫画を読んでいただいた方はお気づきかと思いますが、「がごはん」のメンバーはそれぞれ別の読み切り作品で登場したキャラクターを集めたものです。がごはんの作品構想はわりかし最近考えついたもので、4人とも何かと戦うことを前提として生み出されたキャラクターではないため、真の意味での「寄せ集めメンバー」と言ってもいいかもしれません。

 戦うヒロインとして想定しなかった彼女たちですが、いざ戦場に身を置いてみると意外にも手持ちの能力や性格でなんとかなってしまうことに私自身驚いています。意図せずともメンバー間のキャラのバランスはとれていたため、各キャラクターの性格、設定などは読み切り時からあまり変更を加えませんでした。本当に偶然の産物ですね。

 ちなみに本来なら第1話の時点で4人全員登場させる予定だったのですが、「店長」と「ゆうちゃん」の関係性の説明がノイズになってしまったので、「ゆうちゃん」は泣く泣く第2話で登場してもらった……という裏事情があります。

――描いていて一番楽しいキャラクターと、その理由を教えてください。

ゆのこショウ:主要キャラの中ですと「ひろみちゃん」を描くのが楽しいです。ギャグのネタを思いついたときに「こんな酷いことを言ったり行ったりするのは大丈夫かな?」と躊躇うことがあるのですが、彼女ならまあ何かしでかしても大丈夫かな…と思える謎の安心感を持つキャラクターになった気がします。

 最近まで私は漫画家さんがおっしゃる「キャラクターが勝手に動きだす」という感覚をあまり理解できなかったのですが、彼女を描くことで少し理解できた気がします。

――逆に動かすのが難しいキャラクターはいますか?

ゆのこショウ:動かしづらい……というほどではないですが、がごはんの中ですと実は「みいちゃん」が描くのが大変でした。みいちゃんと共生している「蛇神さま」は設定が結構複雑なので、最小限の説明で読者の方に理解していただけるにはどうしたらよいかと、その塩梅を考えるのに苦労しました。その分ポテンシャル…というか能力の拡張性等は一番高いキャラだと思っていますので、彼女たちの今後の活躍にご期待ください。

――第2話に「撲滅だより」というタイトルで、壁新聞の小コーナーのような「ざつだん」がついていました。こちらも楽しく、また読んでみたいです。

ゆのこショウ:「ざつだん」は前身となった読切漫画とのかかわりを示唆するおまけ漫画として描きました。本当はこういったとりとめのない会話劇や日常モノっぽいお話も描きたいと思うのですが、私はこの作品を完全にギャグ漫画として描いているので、こういった日常ものっぽいページを入れることに、ある種の恐怖というか、抵抗を覚えるんですよね……

 店長とゆうちゃんの日常風景など紹介したいエピソードもあるので、機会があれば「ざつだん」と同じような雰囲気で描いてみたいです。もしくはX(旧ツイッター)上で無料公開の形をとっても良いのかな……と考えております(余裕があればですが)。

――第一話を読み、これから連載を追いかけるみなさんに向けて、「見どころ」や伝えたいメッセージなど、一言お願いします。

ゆのこショウ:基本的には何も考えず一話完結のコメディとして軽く読んでいただけるととても嬉しいのですが、今後お話を続けていく中で、がごはんメンバーの関係性の変化や新たな一面、がごの生態や秘密などにも触れていくので、そういった部分も楽しんでいただけると幸いです。そしてモブとして登場している天津水市民にも注目してあげてください。ある意味がごより怖い連中もちらほらいます。それと今後も前面に押しすぎない程度に熊本県のご当地要素も入れていくので、分かる人は是非その要素を探してみてくださいね。

◆『天津水市「がご」撲滅だより がごはん』
https://viewer.heros-web.com/episode/14079602755136845807

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