【話題作試し読み】『先輩はおとこのこ』が切り拓く“国産webtoon”の明るい未来 アニメ化を目前に原作をチェック!
「LINEマンガ インディーズ」への投稿をきっかけに本連載まで駆け上がり、2024年にフジテレビ“ノイタミナ”ほかにてテレビアニメの放送が決定している大ヒットwebtoon『先輩はおとこのこ』(ぽむ)。一度は完結を迎えたが、現在は中学生時代の青春を描いた前日譚「出会い編」が好評連載中だ。
本作の主人公は、幼い頃からかわいいものが好きで、セーラー服にウィッグ着用で高校に通う“男の娘”=花岡まこと。そして、まことを女子だと思って告白し、男子だとわかったあとも追いかけてくる愛らしい後輩・蒼井咲、まことを見守りながら秘めた思いと共に日々を送ってきた幼馴染の大我竜二(りゅーじ)ーーと、それぞれに明るい未来が訪れることを願わずにいられない3人を中心とする青春ドラマが『先輩はおとこのこ』だ。
本作では、世間が求める「普通」と自分自身の思いの間で葛藤しながら、成長していく3人の姿が切なく、瑞々しく描かれている。ジェンダー・アイデンティティがひとつのテーマになった今日的な作品ではあるが、作者のぽむ氏は意図して強いメッセージを発することなく、3人の魅力的なキャラクターをフラットな目線で描く。そうして読者に思いを巡らす余白を残しているのが、本作が多くのファンに恵まれている要因のひとつだろう。
アニメ化に向けてこれから原作に触れる人のため、ストーリーのネタバレは控えるが、美しくメリハリの利いた作画も、本作の大きな魅力だ。もともと主にイラストレーターとして活躍してきたぽむ氏が描く“見せゴマ”はそのまま一枚の作品といえる美しさ。一方で、わちゃわちゃとデフォルメされたシーンも愛らしく、読み疲れさせないアクセントになっている。ページごとのまとまりで表現するのではなく、フルカラー&縦スクロールでアニメーションのように展開する「webtoon」という表現形態にフィットした絵作りなのだ。
ぽむ氏は『先輩はおとこのこ』が一度完結した後、『ノアは方舟』というファンタジー作品も手掛けていた。見せ物にされる人生に絶望していた人魚・ギノと、「姫」と名乗る謎の少女を中心とした物語で、キャッチーで読者の関心を惹く設定のなかに、切実で普遍的なメッセージを溶け込ませるのが極めて上手い作家だということがわかる。「異世界転生」や「復讐(リベンジ)」のような、刺激とカタルシスに溢れたトレンドの外で、このようにフックのある物語を紡ぐことができるwebtoon作家はまだ多いとは言えず、日本人作家として新たな地平を切り拓いている存在だと言えるだろう。
そんなぽむ氏が記念すべき第一歩を刻んだといえる『先輩はおとこのこ』。まずは100話で完結した本編をじっくり味わい、『ノアは方舟』の連載を経て、表現の幅をグッと広げた『先輩はおとこのこ 出会い編』の変化も楽しみたいところだ。その先に、“国産webtoon”の未来も感じられるだろう。
『先輩はおとこのこ』
作品URL:https://lin.ee/jJLhqYN/pnjo
コピーライト:©pom/LINE Digital Frontier