【ライトノベル最新動向】スニーカー大賞、電撃小説大賞、ファンタジア大賞の「大賞」作品が並ぶ2月のライトノベル

 2月のライトノベルは、新人賞の「大賞」を受賞した作品が続々と登場して、ライトノベルのファンを喜ばせそうだ。

 まず挙がる作品が、2月20日発売の零余子『夏目漱石ファンタジア』(ファンタジア文庫)だ。第36回ファンタジア大賞で「大賞」を獲得した時から、「シン・夏目漱石」というタイトルが評判になっていた作品で、文字通りに日本の文豪・夏目漱石が主人公として大活躍する。

 少し前の千円札に描かれていたような、髭を生やしたしかめっ面のおじさんに活躍されても嬉しくないという声もありそうだが、そこはどうやら安心そう。夏目漱石が24才で亡くなった樋口一葉の体に脳を移植されて蘇り、女子校の教師になるという展開になっていて、文豪ならではの明晰な頭脳と、肉体の若さを生かした行動力で文豪の脳が奪われる事件の謎に挑む。

 脳移植の手術をしたのが若き日の野口英世で、取り仕切ったのが軍医でもあった森鴎外で、他にも寺田寅彦やら芥川龍之介といった日本の偉人たちが続々と登場しては、伝記に書かれたものとは違った生々しい言動を見せて、展開に絡んでくる。『文豪ストレイドッグス』とはまた違った文豪バトルの帰結は迫力十分。読んで中身に驚き、続きに大いに期待しよう。

 こちらは4,467作品の応募作品の頂点に立つ第30回電撃小説大賞の大賞受賞作。2月9日発売の夢見夕利『魔女に首輪は付けられない』(電撃文庫)で、かつて貴族階級が魔術を独占していたものが、時代が変わって魔術が大衆化して犯罪率も急増。これに対抗するために魔術犯罪捜査局が作られたという設定の上で、ローグという名の捜査官が上司ヴェラドンナのある策略から、皇国に災いをもたらした魔女と共に捜査する〈第六分署〉に送られ、事件に挑むストーリーが綴られる。

 魔女たちは〈首輪〉によって魔力を制限されているはずだが、所属していた〈人形鬼〉ミゼリアをはじめとした魔女たちは、ローグを振り回して翻弄する。厄介な状況の中で苦労する捜査官と奔放な魔女たちの対比が面白そうな作品。ローグ自身がどのような活躍を見せるのかも気になるところだ。

 第30回電撃小説大賞からは、(同じく)大賞を受賞したfudaraku『竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』(メディアワークス文庫)も2月24日に登場する。舞台は明治の終わり頃の金沢で、病死した父親が営んでいた商いを継ぐために、17才の菖子という娘が東京からやって来て、父親がもてなしていた〈おかととき〉という怪異を喜ばせる宴に臨む。

 『ビブリア古書堂の事件手帖』の三上延が「泉鏡花を思わせる偏奇的·幻想的な作風」と選評に書き、『ストライク・ザ·ブラッド』の三雲岳斗も「緻密な描写力で独特の世界観を描き出す、極めつけの問題作」と選評で指摘した作品だけに、内容への期待も大きく膨らむ。ネタバレ厳禁と言わるほどの衝撃的な中身の真相やいかに? 明治の文豪が活躍する『夏目漱石ファンタジア』と並んで明治ラノベのブームを拓くか。

 2月1日発売の凪『人類すべて俺の敵』(スニーカー文庫)は第28回スニーカー大賞の大賞受賞作。降臨した神が人類は〈魔王〉によって滅ぼされると宣告する。実際に世界では、魂魄剥離という現象が起こって、1億人もの人間が命を失っていた。人類を代表する10人の〈天使〉は、元凶となっている〈魔王〉とされる少女に対して聖戦を始めるが、高坂憂人という少年だけは、少女は世界の敵に仕立て上げられたのだと知っていた。

 たとえ世界全体が敵に回っても、かよわい少女を守って戦うことを決意した少年の物語。「登場人物それぞれが、自らの正義のために苦悩し決断していく展開が、読者に息つく暇を与えません」といった編集部の総評にもあるように、ぎりぎりの状況の中で挑み続ける少年少女の姿を存分に味わうことができそうだ。

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