『葬送のフリーレン』フリーレンを孤独にさせなかった二人の英雄ーーヒンメルとフランメが残したもの

※本稿は『葬送のフリーレン』最新話の内容に触れています。未読の方はご注意ください。

 アニメ化で大ブレイクしている、異世界ファンタジー漫画『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人/作画:アベツカサ)。魔王が討伐された後の世界を舞台に、悠久の時を生き続けるエルフの魔法使い・フリーレンによる“人間を知るための旅”が描かれる。それは彼女の大切な記憶をたどる旅でもあり、それゆえに物語が進むごとに、過去のエピソードにまた違った輝きが宿る作品だと言える。

 そんなことを再認識させられるエピソードが、1月17日発売の「週刊少年サンデー」に掲載され、現在「サンデーうぇぶり」でも読むことができる122話で描かれた。さりげないエピソードに見えて、大きな意味がある1話だった。

 勇者ヒンメルの死から31年後、帝国領ティタン城塞跡。北を目指すフリーレンの一行はある依頼を受ける。多額の報酬が提示されるが、フリーレンはいつものように、役に立つかわからない魔法のメモを対価に選んだーー。

 すでに作中で描かれたように、フリーレンが人を助ける、あるいは何らかの依頼を受けるとき、必ず対価を要求するのは、勇者ヒンメルが「人に貸しを作っては、本当に助けたことにならない」というスタンスだったから。それが往々にして「くだらない魔法」であることは、主にフリーレンの趣味だという理由が大きいが、それだけではなかったようだ。

 122話では、人間の身で英雄として歴史に名を刻んでいる大魔法使いで、フリーレンの師匠でもあるフランメとの思い出が描かれた。人間は老いてすぐに死んでしまうのに、なぜ魔法を学ぼうとするのかーーそんな疑問を持つフリーレンに対し、フランメは、魔法の理論を研究し、自身の死後もそこから多くの魔法が生まれることの意味を語る。うまく理解できないフリーレンに投げかけられたのは、「お前が一生かけても学びきれないほどの魔法を、この世界に残してやると言ってるんだ」という言葉だった。このセリフを念頭に過去のエピソードを読み返してみると、くだらない魔法たちが愛おしく見えてくる。

 思い出すのは、勇者ヒンメルが自身の銅像の出来に異様なほどこだわった理由だ。ナルシスティックな欲求もゼロではないかもしれないが、一番の理由は、自分たちがこの世を去った後もフリーレンを孤独にさせないためだった。フランメが晩年まで魔法の研究に身を捧げたのも、いずれ魔王を倒すだろう愛弟子の永遠に近い人生を少し楽しいものにしてやろう、という思いが含まれていたに違いない。

 寿命の長さから死生観が人間とはまったく違い、出会いと別れを淡々と繰り返してきたように見えるフリーレンだが、物語の冒頭でヒンメルの死に涙を流し、“人間を知る”ことを旅の目的のひとつに定めたのはなぜか。それは、無償の愛情を注いでくれた誰よりも優しい勇者と、類を見ない知性と魔力の裏に茶目っ気を持った弟子思いの大魔法使いがもたらした変化だと言っていいだろう。

 フリーレンはこの後も、ヒンメルの銅像に出会い、くだらない魔法を集めながら人生の機微を学び、それをフェルンやシュタルクに伝えていくのだろう。キリのいい123話は、1月31日発売の「週刊少年サンデー」に掲載予定。引き続き、物語の行方を楽しみにしたい。

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