ポテトチップスの湖池屋、ヒット商品連発の秘訣とは? 佐藤章社長が明かす、ブランディングの極意

メガトレンドを読む

ーー数々の大ヒット商品を生んでいる佐藤さんですが、その秘訣を教えてください。キリンビバレッジ時代からどのような方法論をお持ちだったのでしょうか。

佐藤:新商品をヒットさせるためには、メガトレンドを読むことが一番重要です。マーケティングの世界では大きな波が20年に1回程度やってきます。飲み物を例にとると、昔は水といえばタダ(無料)でしたが、飲み物が有価の時代となり、最初にヒットした飲料は、米屋で売っていた「プラッシー」でした。その次が「コカ・コーラ」で約20年間、負けなしだったのですが、それを破ったのは「ポカリスエット」でした。そして次がお茶なんです。私が開発に関わった「生茶」などのお茶が日本の飲料における最大のカテゴリーになりました。「生茶」が出て以降、競合する商品が多数出てきましたが、そうした群雄割拠の状況は、実は歓迎すべきものなのです。参入者が多いほうが市場自体が大きくなるからです。そして今、お茶の次には、水・炭酸水のブームが来ているように感じています。

 このように大きな流れを見てみると、オレンジ果汁飲料から炭酸飲料、そしてスポーツドリンク、お茶、水となっている。最初は甘いものから、中甘になり、薄甘になり、無糖になる。しかし無糖だとあまりにも刺激がなさすぎるので、炭酸に揺れ戻っている。

 この理論はスナックにも応用して使えるのではないかと考えています。例えば大甘、中甘、薄甘ときて、無糖に当たるのがセイボリーの塩。この次に来ている水・炭酸水に当たるのは、食塩・塩の健康系ではないかと思うのですが、飲料と同様にはなっていない。流行の乱高下を短い期間で見ていると、それなりのヒット商品は作れると思います。桃が流行る時期もあれば、ブドウが流行る時期もある。オレンジはずっと人気がある。そうしたことを見ていれば、新商品は作れますが、大ヒット商品はもっと構造的なメガトレンドを読まなければならないと思います。

ブランド構築に必要なものはカルチャー

ーー今回の書籍では、マーケターにとってカルチャーがいかに大事であるかも書かれています。具体的にはどういうことでしょうか。

佐藤:僕らは嗜好品を作っています。つまり、生活必需品ではないけれど、なければ寂しいというようなもの。日用品は、機能価値だけで済みますが、嗜好品になると機能性だけでなく、その上に情緒的な価値がのってくる。つまりベネフィット(便益)です。自分へのご褒美として食べることで、すごく気分が和むとか、スカッとするという情緒が大事です。この情緒と直結しているのがカルチャー、つまり人々の背後にある文化的な側面です。さらにはフィジカルな身体的な価値と情緒的な価値の上には人格がある。その人となりや生活信条、これはまさにカルチャーによって決まるのです。

 例えばタバコの「マールボロ」は馬に乗って気持ちよさそうに吸っているカーボーイの人格を商品に投影させた。そうすることで世界中のスモーカーたちがそのマールボロカントリーに憧れるようになった。また、ジョージアの缶コーヒーの「エメラルドマウンテン」はジャマイカのブルーマウンテンを眺めながら飲む姿をイメージしている。

 どんな人に手にとってもらいたいのか。その人たちが持っているカルチャーは何かを考え、情緒や人格に繋がる世界観を作っていく。そうしなければ、ブランドはできません。商品開発の世界では音楽、ファッション、食などあらゆる文化的な側面を全部考えて、それを掛け合わせていきます。だからマーケターはカルチャーに敏感でなければならないのです。

ーー佐藤さんが手がけた缶コーヒー「FIRE」でスティーヴィー・ワンダーにCMソングを依頼したお話も書かれています。

佐藤:僕は「FIRE」を作ったときに、スティーヴィーに日本人に向けた応援歌を作ってほしいと思いました。しかも、ソウルフルにと注文をしたのは、日本人の情緒に訴えるにはバラードでは駄目だと考えたからです。日本は演歌の国なので、スティーヴィーが考える演歌を作ってほしいと頼んだ。カルチャーが人々の琴線に触れるかどうかとはそういうことです。

 ファッションでも車でも、自然界から着想しているデザインが数多くあります。例えば、マツダの車は野生動物をモチーフにしている。獲物に飛びかかる瞬間の曲線を描き、生命感のある赤いボディカラーをソウルレッドと呼んでいる。自然にあるものから着想を得て、その人の好みや感性にフィットさせていく。

 これを自然哲学といいます。青い山を見ると気分がスーッとするとか、太陽を見るとパワーをチャージしたくなるとか。そういう自然からもらっている力を考えながらブランドを作らないと、大ヒットにはならないと思います。

ーー湖池屋の商品にはどのように生かしていますか。

佐藤:例えば、「ピュアポテト」のパッケージはブルーグレーという、今まで全くポテトチップスの世界にはなかった色を使用しました。普通の水色ではなく、あえてブルーグレーでアーティスティックに表現したかったのです。

「カラムーチョ」は、驚きのからさと旨さに思わず踊り出してパワーをチャージして盛り上がるようなカルチャー、世界観をパッケージでもイメージしています。

 また、「湖池屋ストロング」はコロナ禍の時期にヒットしました。当時は外出ができずに人に会えなかったからストレスが溜まっていた。そのうさを晴らすように、ストレス解消という情緒を、どういう風に表現するかを考えました。

 今はカルチャーがますます重要になってきている時代です。一言で言うと、オタクがセンターを張る時代なのです。自分の世界に没頭し、自分の好きなものに囲まれて暮らすこと。まさに大谷翔平選手がそうですね。野球に全集中をして、それ以外のことにかまけずに取り組んでいる。若い力で自分の好きなものにパワーを注ぎ込む。誰もが自由に好きなものを見つけて、そこに自分を賭けていく時代になっている。日本人はそうすることで世界にリードしていけると思っています。

■書籍情報
『湖池屋の流儀-老舗を再生させたブランディング戦略』
著者:佐藤章
価格:1,760円
発売日:2023年12月20日
出版社:中央公論新社
https://www.chuko.co.jp/tanko/2023/12/005723.html

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