ホストクラブはなぜ「初回無料」を謳うのか? 2009年のベストセラー『フリー <無料>』から考える

 さて、本書で広まった言葉のひとつが「フリーミアム」だ。基本、無料でサービスを行き渡らせ、その中の一部のユーザー向けの有料課金プランで収益を得るという仕組み。一方で「サブスクリプション」は、この本では、用語としては使われていない。一応、定量課金のサービスについては触れているが、それが初月無料などのお試し期間=フリーと結びつき、SpotifyやNetflixのようなサービスの拡大が始まるのは、この本よりもあとのことである。ちなみに、『フリー』では、写真共有サービスのFlickrとその有料のPRO版という題材を使って「フリーミアム」の説明がされていた。このあたりに時代の趨勢が感じられる。

 『フリー』には、「ファン」についての言及が多い。例えば、レディオヘッドやナイン・インチ・ネイルズは、楽曲の無料化を受け入れている。だが、それによってファンが増え、彼ら彼女らがコンサートに足を運び、Tシャツを買ってくれることで経済が成立しているのだと触れられる。当時は、音楽産業が危機に置かれていた。CDもダウンロードも大きな売り上げにはなっていない。だがすでに野外フェスは大規模化していた。そこで売られるグッズやTシャツ、つまりマーチャンダイジングが大事なるということには、すでに言及されているのだ。

 「無料音楽がファン層を拡大している」「若いファンは熱烈にも献身的にもなれるんだ」というのは、『フリー』の中で引かれるラッパーの50CENTの発言。「応援」という消費の仕方や「贈与経済」の要素が強くなったのだということ。つまり、推しビジネスが予見されているのだ。

 2023年は「推し経済の終焉」が見えた年だった。ジャニーズ事務所と宝塚という推しビジネス2大勢力のあり方に疑問符が打たれ、ホストクラブへの規制強化、売掛金制度への見直しがはじまった。新しい消費のあり方として注目されてきた「推し経済」は、ネットのフリー時代とワンセットだった。『フリー』という本を刊行から15年経って読み返して、はじめて気がついたことだ。

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