わたしの幸せな結婚、お隣の天使様、薬屋のひとりごと……2023年のライトノベルシーンを振り返る

 2023年はライトノベルのミステリが豊作だった。例えば紙城境介『シャーロック+アカデミー』シリーズ(MF文庫J)は、犯罪王の孫として生まれながら探偵になろうと養成学校に入った少年が、探偵王の養女と出会い競い合うといった展開で、学園内で起こる事件に挑んだり、孤島で起こる連続殺人に挑んだりする展開を楽しめる。ヒントになりそうなことを太字でわざわざ書く挑戦的なスタンスもユニークだ。

 手代木正太郎『涜神館殺人事件』(星海社FICTIONS)は、オカルトへの関心を誘うミステリ。イカサマ霊媒師の女性が不穏な噂を持った館に招かれ、著名な霊能力者に混じって交霊会に参加するものの、連続殺人が起こって霊能力者たちが殺されていく。超常的な力も条件に含めながら事件の謎を解き明かそうとする特殊設定のミステリで、推理の楽しみとオカルトに関する知識を得られる喜びを、同時に味わいたい人にはうってつけだ。

 異世界が舞台でもジャンルがミステリでもなく、ティーンが主人公でもない作品だが、読んでおきたい作品が四季大雅『バスタブで暮らす』(ガガが文庫)。苦労して就職したもののパワハラに遭った女性が、退職してそのまま家にあるバスタブに入ったまま外に出られなくなってしまう。そこから配信を通じて外の世界と繋がって回復を目指そうとする展開が、世の中との折り合いをうまく付けられない人の共感を誘う。

 VTuberがテーマのライトノベルも増えてきた。切り忘れによって素の性格が配信されたVTuberが、取り繕った普段とのギャップから大人気になってしまうという七斗七『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』シリーズ(ファンタジア文庫)は8巻まで刊行される人気シリーズに。第35回ファンタジア大賞〈大賞〉作品の朝依しると『VTuberのエンディング、買い取ります。』シリーズ(ファンタジア文庫)は、炎上をネタにするブロガーにVTuberが炎上させて欲しいと依頼してくる設定が、苦しいこともあるVTuberの世界に迫る。

 VTuberから顔出しをして芸能人になった少女が捨てたはずのVRキャラが、かつて一緒にキャラを作った少年に前に現れ騒動を起こすという詠井晴佳『いつか憧れたキャラクターは現在使われておりません。』(ガガガ文庫)は、大量に登場しては消えていくVTuberへの切なさを含んだ感情をかきたててくれる。ライトノベルを通して、盛り上がっているジャンルについて様々な角度から迫ってみよう。

 アニメ化によって盛り上がりそうなシリーズを最後に幾つか。香坂マト『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』シリーズ(電撃文庫)は、残業が嫌で仕方がないギルドの受付嬢が、残業が続くのは冒険者たちによるダンジョン攻略が進まないからだと考え、密かにダンジョンに戻ってモンスター退治を続けるうちに、最強パーティからも一目おかれる存在になってしまうというストーリー。それだけ頑張っても次から次へと残業が襲ってくる展開に苦笑が浮かぶ。

 2024年1月3日からアニメがスタートの珪素『異修羅』(KADOKAWA)はバトルまたバトルの連続というか、バトルしかない展開がひたすら続く格闘ファンにはたまらないシリーズ。誰か分からない勇者によって魔王が倒された世界で、本当の勇者を決める大会が開かれることになって、剣士から詠唱者から巨人から巨竜から骸骨までをも含む多士済々の強者たちがトーナメント形式で戦い合う。文字通りの異種格闘技を映像がどれだけの迫力で描くかが今から楽しみだ。

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