実写ドラマ『幽☆遊☆白書』最大の功績は? 稲垣吾郎演じるヴィラン・左京のカリスマ性

 何より見事な脚色だったのが、左京というヴィラン(悪役)を一話から登場させて物語の中心に据えたことだ。

 左京は、闇社会で妖怪の売買をおこなうブローカーで、ドラマ版では表ではカジノを運営し、裏では資産家向けに妖怪同士の殺し合いを賭けの対象として見せる闇クラブを開いている。

 浦飯の宿敵となる妖怪の戸愚呂(弟)の雇い主で、バトルにおけるラスボスは戸愚呂(弟)で、彼に命令を下す悪の人間が左京という構図になっていた。

 彼の目的は魔界と人間界を繋ぐ界境トンネルを開けることで、そのために資産をつぎ込んでいた。トンネルが貫通し、強大な力を持った邪悪な妖怪が人間界に押し寄せてくるようになれば、自分も含めた人類は存亡の危機となるが、その混乱自体を左京は待望しているようだった。

 また、彼は生粋のギャンブラーで、過去に自分の命をチップにした賭けを四回行っており、戸愚呂(弟)と浦飯と戦う際にも、戸愚呂(弟)が勝つ方に自分の命を賭けている。

 漫画では、浦飯の上司にあたる閻魔大王の息子・コエンマは、左京の眼を見て、これまで自分の命をドブにさらしてきた人間の眼だと断言し、保身を考えない人間の抱く野望は他人だけでなく自分を巻き込む破壊行為になると恐れる場面がある。

 左京の行為は現代的に言うと、他人を巻き込んだ「拡大自殺」であり、大富豪の「無敵の人」とでも言うべき存在だ。

 また、漫画で印象的だったのが、左京が戸愚呂(弟)に自分の生まれについて語る場面だ。

 左京は自分の両親は平凡な人間で五人兄弟だったが、客観的に見ても兄弟を分けへだてなく育てた理想の家族だったと語り、結局、腐っていたのは自分の脳みそだったと、自分が悪党になった理由について冷静に自己分析する。

 漫画ではヴィランが闇堕ちした原因として、両親から虐待を受けていた等の悲しい過去を描くことがよくあるが、左京にはそういった過去がなく、自分がこうなったのは全て「自己責任」だと考えている。

 原作漫画では左京の暗黒面の描写は最小限に抑えられていたが、少ない台詞から漏れ出す左京のドス黒い闇は強烈な印象を残した。

 ドラマ版では、この左京を映画『十三人の刺客』やドラマ『流れ星』の悪役が印象的だった稲垣吾郎が演じており、カリスマ的なヴィランとして一話から登場させている。

 漫画版に比べると満たされない気持ちを抱えて人生に退屈しているギャンブラーという側面が強まっているが、これはドラマ版ならではの魅力となっている。

 賞賛したい点は山ほどあるが、何より左京という魅力的なヴィランを現代に蘇らせたことこそが、ドラマ版『幽白』の最大の功績ではないかと思う。

関連記事