『ブルーロック』絵心甚八はフットボールの世界を手中に収めるかーー信念を貫く“首謀者”の肖像

 青い監獄と呼ばれるサッカー施設「ブルーロック」に集められた300人の選手たちが、世界一のストライカーを目指す為に生き残りを掛けたサバイバルを繰り広げる“史上最もイカれたサッカーマンガ“=『ブルーロック』(原作:金城宗幸/漫画:ノ村優介)。登場人物全員がエゴイストといっても過言ではない本作品で、ある意味最もエゴを剥き出しにしているのが、ブルーロック(青い監獄)プロジェクトの創始者、絵心甚八である。

日本サッカーに足りないピースをブチ込むサッカー界の異端児

 日本サッカーが世界に誇る武器といえば組織力、協調性といったものが挙げられるだろう。個の力が劣る中で、組織の力で連動し選手同士の共通理解を高め世界との距離を縮めていったことは紛れもない事実だ。そしてこの20年の中でMF、いわゆる中盤のプレーヤーや献身性の光るSBといったポジションで5大リーグと呼ばれるヨーロッパの世界最高峰リーグでプレーする日本人選手の姿も珍しくはなくなった。

 しかし、それだけでは世界一を獲ることはできない。何故なら日本には未だかつて世界トップクラスのストライカーが誕生していないのだ。

 絵心の持論は世界一のエゴイストこそ世界一のストライカーであるということ。ブルーロックプロジェクトを通して、それまでの常識を覆す思考を脳内にブチ込み、他との違いを生み出す圧倒的な「個」の存在を創り上げようとしているのだ。絵心のチャレンジは長年日本サッカー界が抱えていた問題に正面からぶつかっている証左でもある。

荒唐無稽の中にも垣間見える指導者としてのセンス

 絵心甚八は一見、その歯に衣着せぬ物言いが注目されがちだが、その実指導者としての確かな能力を感じさせるシーンも作中では度々描かれている。中でも印象的なワードが「成功の再現性」だ。

 どれだけド派手なゴールを決めても、それがただそれ1度だけで終わってしまう選手も少なくない。己のゴールを産み出す為の方程式を導き出し、常に目まぐるしく戦況が変わる中で成功を量産させることができるストライカーこそ世界一なのだと告げるシーンは絵心の指導者としての力量を示す説得力を持った言葉だ。

 また、作中で絵心は才能についても言及している。才能とは「己の能力を証明する力」と絵心は捉えている。選手自身が信じ身につけた唯一無二の武器を世界に示すことができる人間こそが一流であるという信念を持ち、ブルーロックプロジェクトを遂行しているのだ。

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