アニメ化話題の『姫様“拷問”の時間です』は小さな幸せを集める物語? 姫様と拷問官に人生を学ぶ

 2024年1月からのアニメ放送が予定されている漫画『姫様“拷問”の時間です』が注目を集めている。

 原作・春原ロビンソン&漫画・ひらけいのタッグにより、2019年から「少年ジャンプ+」で連載中の本作。物騒なタイトルとは裏腹にゆるゆるとしたハートフルな物語が展開されており、「癒される異世界コメディ」という時代のニーズにあった作品として愛されている。

 主人公は、とある王国の王女にして第三期師団長の「姫様」。魔王軍の手により囚われの身となり、日々“拷問”を受けることになるが、その内容にほっこりさせられる。妙に愛嬌のある魔王軍は、姫様の心身を痛めつけて王国にとって不利な情報を吐かせようとするのではなく、いわば「吐いた後のご褒美」をちらつかせて、姫様を誘惑するのだ。「北風と太陽」に例えるなら、徹底して「太陽」な仕打ちである。

 姫様と一緒に捕えられた相棒であり、意思を持った伝説の聖剣である「エクス」が毎度のようにツッコむことになるのだが、ほかほかのトーストを食べたい、もふもふの動物と戯れたい、拷問官たちと一緒にゲームで遊びたい、かわいすぎる魔王の娘に手柄を立てさせてやりたい……などの欲望に勝てず、姫様は口を割ってしまう。しかし、変わり者だが慎重派で優しい魔王(※見た目は怖い)は、何かと理由をつけてその情報を利用しようとしない。ときおり変化球を織りまぜつつ、基本的にこの愛すべきマンネリが続いていく。

 一般的な異世界ファンタジーのような世界観だが、カップ麺や海外ドラマなど現実に即した商品/コンテンツが普通に出てくるため、“拷問”は地味に読者にも効いてくる。愛らしいキャラクターやコメディのセンスも魅力的だが、本作の人気のポイントは読者を巻き込む“拷問”自体にあるのではないか。一般的な意味での「拷問」を思い浮かべたとき、行動を制限されず、痛みも苦しみも与えられない日常のありがたさを感じるが、本作の“拷問”を見ていると、それ以上に日常がいかに快楽にあふれ、心が弾む出来事で満ちているか、ということを思い出すのだ。

 安価でありふれた食材でも、工夫次第で思わず「口を割ってしまう」ほどうまそうな料理はできるし、「コタツでアイスクリーム」や「深夜のラーメン」など背徳的な食事も、たまにならいいご褒美だ。そうしたB級グルメを中心に「大きな嫌なこと」ではなく、「小さな幸せ」を探し続ける本作の拷問官たちと、いつでもうれしそうに口を割る姫様は、人生の上級者なのではないかと思えてくる。

 小さな幸せを共有しながら友情を深めている姫様と魔王軍の日常はいつまで続き、どんな結末を迎えるのか。アニメの放送とともに、勢いを増しながらも“ネタ切れ”が心配になる原作の今後にも注目したい。

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