明日カノはまだ終わっていない……『明日、私は誰かのカノジョ』完結記念! をのひなお先生が語る、4年半に渡る連載の裏側

「ゆあの人気が出過ぎちゃって……。」6章のヒロイン・江美が誕生した理由

――『明日カノ』は、章ごとに様々な事情やコンプレックスを抱えたヒロインが登場しますが、そもそもキャラクターとテーマ、どちらが先に思い浮かぶのでしょうか?

をの:どっちだろう? まず最初に雪というキャラクターが生まれて、彼女の友達でリナがいたので、2章はそのままリナを主人公にしました。3章を描く際は、私自身が過去に整形したことがあるので描きやすいから整形をテーマにようって。それで、キャラクターをどうしようかなって思っていたら、2章で雪の同僚として彩が1〜2コマ登場してたのであの子を使おうという話になりました。4章のホスト編では、過去に大学の飲み会に出てきた萌を思い出して……。だから、キャラとテーマどちらが先なんだろう?

担当編集:テーマですね。

――テーマが先にあって、さらに過去に登場したキャラを繋げていくという作り方だったんですね。

をの: 5章では推される側の話を描こうと思いました。そして本当は、5章の後に最終章へと突入する予定だったのですが、ホスト編であまりにもゆあの人気が出過ぎちゃって……。

――“ゆあてゃ”人気は凄かったですよね。社会現象を巻き起こしたといっても過言ではないです。

をの:社会現象と言って良いのかわかりませんが、ゆあに憧れてホストクラブに行ったとか、風俗をはじめましたという話を目にして、心が苦しくなったというか…。一度、その先を描かなきゃいけないと思いまして、本当は予定していなかった6章を描くことにしました。言い方がすごく難しいのですが、江美のように将来の見通しもなく年齢を重ねたときにどこかで行き詰まるんだと……。だからと言って、そうやって生きたらひどい目にあうという意味で描いたわけでもなくて…。たとえそうなったとしてもみんな生きていくんだよっていうエンディングにしました。

13巻 28ページより

――6章は本当は描く予定がなかったと聞いて驚きでした。それこそ、最終章のプロローグで雪の母親が江美と友達だったことが判明するじゃないですか。シッチィはあなただったのか! と伏線に震えました。

をの:雪のお母さんの名前は白井愛なので、あだ名が“白井っち”。昔、名前に「っち」をつけるの流行りましたよね。 それで、白井っちから派生して“シッチィ”になりました。実は6章のわりと最初の方で、サチコがシッチィの名を出しているのですが、読者さんは結構細かいところまで見て下さっているので、「雪の母親ってバレちゃうかな?」と心配してたのですが、意外と気付かれなかったです(笑)。

――そんな裏話が……。最終章の構想はいつ頃からあったのでしょうか。

をの:ホスト編の時ですね。最終章で雪が「人間関係って切れそうで切れないね…良くも...悪くも……」というシーンがあるのですが、これはホスト編でも入れていたので、その当時からこの結末に辿り着くように考えていたと思います。ちょっと記憶が曖昧ですけど。

8巻 23ページ
14巻 125ページ

最終章で感じた変化と力が入ったシーンとは?

――最終章に入ってから、それまでと意識が変わった点はありましたか?

をの:最終章は取材も入れなかったし、新キャラで太陽を登場させたけどメインは雪なので、とにかく丁寧に描いて、綺麗に終わらせるんだって。なんだろう……この気持ちは。

担当編集:最終章を描いているとき、ずっと「つらい、つらい!」って言っていたよね。

をの:言ってないですよ!(笑)

担当編集:いや、今まで一番言っていたよ。終わりが見えてきたら、逆に描くのがしんどいっていう。

をの:どの章も描いていてつらかったのですが、最終章に関しては、終わりが見えていて自分の頭の中では完結まで大体できているのに、手が追いつかないと言うか……。パパッと終わらせられるものではないから、結局今までの章の中でも一番長くて1年くらい描いていました。だから一番つらかったのかな?

――最終章を描く際、最も力が入ったのはどんなところでしたか?

をの:最終章は親との確執を描いていたのですが、コメント欄を見ると実際に同じような問題で悩んでいる方って結構いらっしゃるんですよね。実際に悩みを抱えている方がいる手前、つらい描写を入れすぎるとトラウマを刺激してしまうのかなって。あと、親との確執がある方でよく見受けられるのが「こんなことで苦しんでいる自分はダメだ」って、自分を責めてしまうパターン。だから、この最終章を読んでつらい思いが蘇ったり、自分が悪いって思って欲しくなかった。他にも、雪をあまりつらい状況にしすぎると「こんなにつらい思いしている人がいるんだから、自分はもっと頑張らなきゃ」ってプレッシャーに感じることもあるかもしれない。だから、ただ単につらいだけにしない、というところですかね。

――今まで以上に時間を費やし、そして全方向への配慮がなされた最終章だったんですね。最終話を描き終えた時の心境はいかがでしたか?

をの:最終話だけで20ページくらいあって、いつもより大ボリュームだったんですよ。しかも、トークショーもあったからスケジュールがずれ込んで……。結局、最終話の校了は公開された週の頭だったのでとにかくギリギリでした。誤字脱字のミスないかな? ってずっと心配してました。

担当編集:その後にエピローグを描くことは前から決まっていたので、最終話を描き終えても「いや、まだ終わりじゃないぞ!」って。

をの:そのやり取り、5回くらいしました(笑)。私が「終わった!これで解放される!」って言ってたら、まだ終わりじゃないってめちゃくちゃ言われましたね。

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