『ブラック・ジャック』時代を超えてなぜ人気? 手塚治虫が描いた医療漫画、大ヒットの理由を考察

連載50年、人気が衰えない『ブラック・ジャック』

  2023年は、手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』の連載が開始して50年という節目である。手塚治虫の少年漫画における最大のヒット作であるとともに、医療漫画という分野を確立した。現在に至るまで、医療漫画の最高峰に君臨し続けていることは間違いないであろう。

  六本木ヒルズにある東京シティービューで、「手塚治虫 ブラック・ジャック展」が開催されている。記者も先日行ってきた。来場した人はわかると思うが、とにかく原画の数が非常に多く、丁寧に見たら2〜3時間あっても足りないくらいである。久しぶりに見ごたえのある原画展という印象を受けた。無免許のアウトローな医者ブラック・ジャックが、世代を超えて愛される理由は一体どこにあるのだろうか。

  まず、1話完結のスタイルなので、どの巻からでも読みやすいということにある。手塚治虫らしくキャラクターがしっかり立っているので、ブラック・ジャックが医者であるという基本設定さえわかっていれば、サクサクと読める。こうした部分は、手塚治虫のキャラ作り、ストーリー作りの巧さが発揮されているといえよう。そして1巻の中に重い話からギャグ中心の話まで様々な物語が詰まっているため、飽きずに読める。

  そして、これが重要なのだが、医療的な知識がなくても読みこなせる医療漫画なのである。近年の医療漫画は医者や学者の監修を受けている例が多く、専門性が高くなる傾向がある。反面、医療技術を正確に描こうとするあまり、ストーリーに制約が生まれているようにも思う。手術のシーンにページが割かれ、病院内の人間ドラマばかりが描写されると、なかなかとっつきにくい。

 『ブラック・ジャック』は医者という職業を扱っているものの、フィクションを大幅に取り入れ、架空の病気もたくさん登場する。コンピューターを治す話もあれば、宇宙人を手術する話もある。細かい治療方法も正確とは言い難いものも多いが、これこそが漫画ならではの面白さではないだろうか。

 『ブラック・ジャック』は医療技術の宣伝ではなく、あくまでも物語性を重視し、漫画らしい表現を重視し、追求した漫画である。医療“漫画”の金字塔といわれるのは、そうした理由にもよるのではないだろうか。

通好みの楽しみ方ができる稀有な作品

  また、『ブラック・ジャック』は、未だに様々な形で新刊が発売される稀有な漫画でもある。雑誌連載のオリジナル版と単行本版を比較して読める『ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ』が、11月20日に立東舎から発売される。手塚は単行本化の際に大きく加筆修正する漫画家であるため、雑誌と単行本で細部が異なる箇所が多いのだ。エンディングがまったく別物になることは手塚ではよくあることだが(『火の鳥』などの代表作でも多々ある)、『ブラック・ジャック』にもそうした話が存在する。

  さらに、『ブラック・ジャック』には諸般の事情で、未だに単行本に収録されていない話もある。医療関係者から抗議を受けた「快楽の座」の話がそれだが、掲載されている「週刊少年チャンピオン」は「まんだらけ」などの古書店で10万円前後の値が付くなど、プレミア化している。こうした雑誌を蒐集し、全話を読もうとする人は少なくないのだ。そうした通好みの楽しみ方ができる点も、熱狂的なファンが多い要因なのかもしれない。

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