辻仁成、人生を好転させる方法とは「熱血とユーモアを持って“自分流”を貫くと光る個性が現れる」

どんなときも大切なのは“熱血とユーモア”

――辻さんがお住まいのフランスでは、パンデミック中は厳しい措置が取られていたと思います。どのように辛い状況を乗り越えたのですか?

辻:コロナ禍に突入した2020年、息子は高校生でした。フランスでは三度のロックダウンが行われ、僕らも部屋から出なくなりました。学校も休みになり、家から出られないと絶望する息子に「これはミッションだ。家を宇宙船だと思え、僕らは次の惑星に向かっている。力を合わせてここを乗り切るのが使命なんだ」と言って励ますと、暗かった息子が笑顔になりました。僕はどんなときも息子に、“熱血とユーモア”が大切だと教えています。

――“熱血とユーモア”は、辻さんの合言葉でもありますね。日々の暮らしを丁寧に生きていくうえで大切にされていることは?

辻:苦しいときはたくさん料理をします。美味しいものを作って食べることほど素晴らしいことはありません。シングルファザーとして10年間、毎日息子に3食作ってきました。コロナ禍の2年間はおやつも作りました。それは息子を育てるためでもあるけれど、「美味しい」と言ってもらえる以上に、料理をすることで自分が満たされ、元気になるんです。今では愛犬・三四郎の食事も作っていますよ。

――ロックダウンは、辻さんにとっての覚醒の時期だったそうですね。

辻:まるで両手両足を縛られたようなロックダウン中の密室空間で、何ができるか、必死で考えました。そこで思いついたのが、遊覧船を借りて誰もいないセーヌ川から音楽を配信したらどうかということ。仲間を口説いて実行したんです。大きな遊覧船でしたが、観光客ゼロだから半額以下で借りることができたし、チケットもかなり売れました。最悪のときであろうと、前しか見ないんです。バカなんですよね、適度に。

――いえいえ、次々と新しい挑戦をされている姿は凄いと思います。辻さんにとってのエネルギーの源は何でしょう?

辻:僕は生きている間、楽しいことをずっとやり遂げることにしています。「もうダメだ」というときはチャンスだと思うようにしているんです。

――辻さんはコロナ禍でもSNSでの発信を続けていました。SNSとの付き合い方など、思うところがあればお聞かせください。

辻:言葉は人を救いますし、ときに言葉は人を殺しますから、SNSは良いときもあるし、悪いときもある。だから、できるだけいいことを書いているものを見るようにしています。言霊ってあるので、誹謗中傷などには同調しないのがいいです。100年後には誰も生きていないですから、苦しまないで、遠くを見て、強く生きてください。

――最後に今後の挑戦や展望について教えてください。

辻:オランピア劇場でのライブはとても満足しました。そしたら翌日、一人の英国紳士が僕の前に現れてこう言ったんです。「君は素晴らしかった、ロンドンでライブをやろう」と。眉唾な話でしたが、彼はイギリス最大の劇場チェーンのオーナーだった。とんとん拍子で話が進み、10月23日にコヴェント・ガーデンのジャズクラブ「QT」で歌うことになります。

 20歳のとき、プロを目指していた僕は、ブリティッシュロックの影響を受けていました。そして40年が経って、自分流の歌をイギリスの人たちに届けることができる。愉快ですよ。“熱血とユーモア”で、イギリス人を熱狂させてきますね。これからはもっと大きなことが起こりそうな気がしています。

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