『はじめの一歩』鷹村が主人公の世界線もあった? 森川ジョージ、ちばてつや作品に触れて言及
ボクシング漫画の金字塔『はじめの一歩』の作者・森川ジョージ氏が自身のX(旧Twitter)にて、レジェンド・ちばてつやの凄さについて語った。
森川氏はたびたび、幼少期にアニメ『ハリスの旋風』に憧れ、「ちばてつやになりたい」という思いから漫画家を目指したことを明かしている。
そんな森川氏が、ちばてつやの電子化作品について情報発信する公式X(@chiba_ebooks)が公開した『おれは鉄兵』の1シーンを引用する形で語った言葉が、「状況を伝えるのがうますぎる」。主人公の鉄兵を追いかける水泳部が、氷の張ったプールに一斉の飛び乗ってしまい……という、コメディ感と緊張感が共存したシーンで、プールがどういう状況にあるのか、その変化がつぶさに伝わってくる。「何気ないコマに高度な技術がギッチリ詰まっている。これぞ「ちばてつや」の典型例の一つ」と、森川氏は絶賛している。
さらに、同様に鉄兵とラグビー部員たちの追っかけっこのシーンを引用し、ちばてつや作品の主人公の魅力についても言及。「ちばてつや先生は「実際に存在したら近づきたくない」主人公を描く場合がとても多いです」と語り、「石松、丈、鉄平(※鉄兵)、太陽、松太郎然り。嫌なヤツと紙一重です。なのにどうして愛されるのか?これはもう謎」と脱帽している。
確かに、自由奔放で勝つためには手段を選ばない上杉鉄兵(『おれは鉄平』)も、粗野で乱暴な矢吹丈(『あしたのジョー』)も、一面だけ見ると決してかかわりたくない人物だ。しかし同時に、目が離せずなぜか応援してしまうキャラクターでもある。
森川氏の代表作『はじめの一歩』の主人公・幕之内一歩は実直で優しい人間であり「嫌なヤツと紙一重」とは思えない。しかし、イタズラ好きで品行方正とは言い難い鷹村守、ストイックで冗談の通じない宮田一郎、一見冷酷で卑劣にも見える間柴了と、脇を固めるキャラクターには、実在したら近寄りがたく、しかし魅力的なキャラクターが多いことに気づく。
この件について、森川氏自身は「35年前の自分はどうして一歩を主人公に抜擢したのだろう。 やはり嫌われにくい方を選択したのだろうか。 答えは知っているのだけど鷹村を選択していたらどうなっていたのかな」とつぶやいている。
鷹村目線で一歩がどう描かれるのか、確かに見てみたい世界線だが、物語の進行とともに、二人はまた別のキャラクターに育ち、別のキャリアを歩んでいたような気もして歯痒いところだ。