「言葉」を使わずに戦争を描いた絵本――世界的な注目作の内容とは

 ボローニャ国際ブックフェアで話題になり、世界的に注目を集めているウクライナの絵本『イエロー バタフライ』(講談社)が発売された。アメリカ版も各書評で高い評価を得ている。

 「挑発的で力強く、息をのむほどに美しい」――Kirkus Reviews(アメリカ版の書評より)

 日本版『イエロー バタフライ』は9月26日の読売新聞文化面で紹介され、早くも関心が集まっている。この絵本には「言葉」がない。泣き叫ぶ声も、嘆きや怒りの言葉も。でも、だからこそ伝わってくる。嘆き、怒り、絶望――――その果ての希望、平和への祈りが。

 今、ウクライナの戦争の現実を伝える、たくさんの「言葉」が溢れかえっている。わたしたちは「言葉」によって現実を捉えますが、ときにその言葉に惑わされる。どうしようもないと無力感に囚われ、無関心にさえなってしまう。

 戦争によって、突如、妻と幼い子とともに故郷を追われた絵本作家のオレクサンドル・シャトヒンは、このあまりに理不尽で、胸を押しつぶすような現実を、まったく言葉を用いずに、ウクライナの国旗の色である青と黄色、さらには絶望と恐怖を表す黒、「命」の象徴である蝶によって描きだした。そこには、絶望の果てにも希望を見いだそうとする人間の姿がある。

 言葉がないことによって、読者は生の感情を受け取る。ウクライナで起きていることに慣れてしまっている私たちに、「戦争」を自分自身のこととして感じさせる力を持っている。そして、この絵本の「言葉」を紡ぎだすのは、私たち自身なのだ。

書籍情報

■書名:イエロー バタフライ
■著者:オレクサンドル・シャトヒン
■定価:2530円(税込)
■判型・ページ数:A4判・63p
■読者対象:子どもから大人まで
■発売日:9月27日
■発行:講談社

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