『8マン VS サイボーグ009』夢の共演はなぜ実現した? 原典へのリスペクト溢れるクロスオーバー

 夢の競演とは、このことか。『8マンVSサイボーグ009』上下巻は、平井和正原作・桑田次郎作画の『8マン』と、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』の世界をクロスオーバーさせ、8マンとサイボーグ戦士の新たな活躍を描いたSFコミックである。脚本を担当しているのは七月鏡一、作画は早瀬マサト・石森プロだ。

 作品の内容に触れる前に、『8マン』と『サイボーグ009』について、簡単に紹介しておこう。『8マン』は、奸計によって射殺された刑事・東八郎の人格と記憶が、科学者の谷方位博士によって、人型スーパーロボットの電子頭脳に移植される。以後、通常は私立探偵として活動しながら、ひとたび事件が起これば、警視庁捜査一課のどの班にも所属しない八番目の男〝8マン〟となり悪に立ち向かうのだった。

 一方の『サイボーグ009』は、少年鑑別所を脱獄した島村ジョーが、死の商人「黒い幽霊団(ブラックゴースト)」に捕まり、新商品のサイボーグ戦士に改造される。だが、他の八人のサイボーグ戦士と、彼らを改造したギルモア博士と共に「黒い幽霊団」を脱出。サイボーグになったことを悩みながら、「黒い幽霊団」と戦い続けるのだった。

 という説明は、ある一定以上の年代の人には不要だろう。どちらの作品もコミックとアニメがヒットし、大人気作になったからだ。それぞれ作品に一家言を持っているファンも、少なからずいることだろう。だから安直なクロスオーバーならば、批判されたはずだ。しかし本作の評価は高い。大きな理由は、脚本を担当した七月にある。

 藤原芳秀作画の『ジーザス』を始め、漫画原作者として活躍している七月には、本作との関係で、注目すべき作品が二つある。一つは、鷹氏隆之作画の『8マン・インフィニティ』だ。コミック『8マン』の続篇である。そもそも七月は、熱狂的な平井和正ファンであり、ある切っ掛け知り合い、交誼を続けていた。そして平井から指名を受け、『8マン・インフィニティ』の脚本を担当(原作と表記)したのだ。ちなみに作品について、平井と緻密に打ち合わせをしたという。このような経緯で生まれた作品は、原典に敬意を表しながら、その世界を広げた、優れた物語になったのである。

 次に、『幻魔大戦 Ribirth』だ。脚本は七月鏡一、作画は早瀬マサト・石森プロである。内容は、平井和正原作・石ノ森章太郎作画の『幻魔大戦』の続篇として始まりながら、独自の〝幻魔世界〟を構築している。他の平井作品や、石ノ森作品のキャラクターも登場。ファンにとっては堪らない、クロスオーバー作品となっているのだ。このとき七月は、平井作品だけでなく、『サイボーグ009』を始めとする石ノ森作品も、あらためて読み込んだことだろう。

 さて、以上の実績を見れば、七月が本作の脚本担当者になるのが、どれだけ相応しいか分かってもらえるはずだ。実際、ストーリーが素晴らしい。舞台は現代。チェーリップという死の商人を追う、ジョーたちサイボーグ戦士は、彼らと同等か、それ以上の能力を持つ8マンと遭遇。ジョーを「敵」といい、戦いを繰り広げる8マンだが、新たな「黒い幽霊団」に谷博士が捕らわれ、無理やり従わされていたのだ。密かに和解した8マンとサイボーグ戦士は、それぞれの目的のために「黒い幽霊団」の基地に乗り込む。だが「黒い幽霊団」は、旧ソ連の天才スパイにして天才科学者、ナイト・デーモン博士を味方に引き入れ、恐るべき計画を実行しようとしていた。

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