話題のアニメ『火の鳥 エデンの宙』と『エデンの花』――手塚治虫の原作にも“2つのエンディング”がある?

宇宙規模の命の継承か、1人の女性の生き様か

※再度注意。以下、『火の鳥 望郷編』の結末について触れます。

 それでは、ここで、朝日ソノラマ版と角川書店版のエンディングの違いについて書きたいと思うが、まずは、前者の結末から。

 長い旅を経て、ロミは、ようやく地球の大地を踏むことはできたものの、最終的には命を落とすことになる(雑誌掲載版と単行本版ではその経緯は異なる)。コムもまた、地球連絡員の牧村という男に撃たれ、湖のほとりに咲く花に変身する(コムはムーピーの血が流れているため、姿を変えることができるのだ)。

 そして、ノルヴァ——この男でもあり女でもある雌雄単体の異星人は、ズダーバンなる悪徳商人のミスにより餓死(?)することになるのだが、命が尽きる前に無数の卵を産み、そこから孵った子供たちは宇宙へと旅立っていく。

 さらに、ズダーバンが持ち込んだ「麻薬」によって、エデン17の文明は崩壊。その後、荒れ地と化したエデン17を訪れた牧村は、ロミの遺体を埋葬し、『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)の一節を朗読する……。

 一方、角川書店版でも、ロミとコム(およびエデン17)がたどる運命はほぼ同じであるが、ノルヴァのくだりがすべてカットされているため、朝日ソノラマ版とはやや異なる読後感を抱くことになるだろう。つまり、朝日ソノラマ版は、「滅びる歴史もあれば、新しく生まれようとしている歴史もあるのです」というナレーションからもわかるように、宇宙的な視野で“命の継承の重み”が描かれているのだが、角川書店版では、ノルヴァの子供たちのエピソードを排除することで、“ロミという1人の女性の生き様”をより際立たせる形になっているということだ。

 むろん、そのどちらが良い/悪いというのではない(当然、作者が選んだ“最終形”は、角川書店版なのだろうが——)。

 いずれにせよ、今回の『エデンの宙』と『エデンの花』で描かれる2つのエンディングが、原作のこの2バージョンを踏襲しているとは限らないが(たとえば、『エデンの宙』の予告映像を観てみると、ロミと息子の関係など、かなり原作の設定に変更が加えられているのがわかるだろう)、『火の鳥』のシリーズ中、最もハードルが高いと思われる作品をアニメ化したスタッフたちに、いまは心から拍手を送りたいと思う。

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