『呪術廻戦』五条悟と伏黒甚爾、相反する能力と個性 「懐玉・玉折」編を振り返る

勝敗を分けた五条と甚爾の違い

 呪力をほぼ無限に扱える五条は、呪力をもたない甚爾に追い詰められるものの、甚爾との闘いのなかで「赫(あか)」、そして「茈(むらさき)」という新たな術式を会得し勝利を収める。その際に覚醒した五条は不敵な笑みを浮かべながら「天上天下/唯我独尊」と口にした。

 一方の甚爾は違和感を覚えつつも覚醒した五条を殺害しようとする。しかし五条によって片腕と脇腹を吹き飛ばされ、甚爾は命を落とした。

 死が迫り意識が薄れていくなか、甚爾は自身が覚えた違和感の正体を悟る。

否定したくなった/捩じ伏せてみたくなった

俺を否定した禪院家 呪術界/その頂点を

自分を肯定するために/いつもの自分を曲げちまった

自分も他人も尊ぶことない/そういう生き方を選んだんだろうが

 いつもであれば報酬のない闘いを避けていた甚爾は、金のためではなく、捨てたはずの自尊心を取り戻すために五条との闘いに挑んだ。(「天上天下唯我独尊」の一解釈として)自分が尊いと叫んだ五条と、自分を尊ばないと決めた甚爾。対照的なふたりの勝敗を分けたものは、どちらの生き方が正しいかではなく、最後まで自分の信念を貫いたか否かという点にあったのかもしれない。

 ちなみに、甚爾は死の直前に伏黒恵の顔を思い浮かべながら五条に「(息子である伏黒恵を)好きにしろ」と残し、この世を去った。甚爾との闘いを経て“最強”となった五条は、夏油との別れを経て「俺だけ強くても駄目らしいよ」と悟る。そのあと五条はまだ幼い伏黒恵と出会い「強くなってよ/僕に置いていかれないくらい」と話した。

 甚爾が息子の恵にどのような思いを抱いていたかはわからない。ただ甚爾と血縁関係があり、五条と師弟関係にある恵は、対照的なふたりの抱いた、それぞれの後悔を背負った存在と言えるだろう。

 禪院家相伝の術式「十種影法術」を会得している点から察することのできる術師としての稀有な才能。そして虎杖や釘崎をはじめとする多くの仲間に恵まれた伏黒恵。「懐玉」編の直前に描かれた8巻第64話「そういうこと」で、虎杖の色恋沙汰に(クールな表情をしつつも)ノリノリな様子を見せた恵が、今後もしあわせな日々を過ごせることを祈るばかりだ。

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