西尾維新原作『暗号学園のいろは』次世代のジャンプ看板候補となるか 冴えた”暗号解読”の路線変更

路線変更は西尾維新の想定通りだった?

  暗号を通してキャラクターの個性を表現するようになった同作だが、これはある意味出題者が中立を装わなくなったことを意味する。しかし本来、暗号はクイズとは違うものだ。実際に『暗号学園のいろは』2巻のおまけページでは、情報を受け取るにふさわしい相手へと伝達するのが暗号の役割であり、必ずしも万人が解ける必要はない……という解説が行われていた。

  この解説からしても、西尾が最初から暗号をフェアなクイズとして捉えていなかったことが分かる。だとすると、同作の路線変更を作者が想定していた通りの成り行きと考えることもできそうだ。もとより西尾は読者に暗号を解かせる漫画ではなく、暗号で通じ合うキャラクターたちの物語を紡ぐつもりだったのではないだろうか。

  振り返ってみれば、記念すべき第1問の暗号は「自己紹介X(クロス)ワード」であり、回答者が自身の個性を表現できる暗号となっていた。その後も扉絵にて、登場人物たちによるXワードの回答が次々と発表され、キャラクター紹介の役割を兼ねている。

  2巻の帯コメントで「暗号の漫画を作るのではなく」「暗号で漫画を作る」という気概を表明していた通り、西尾にとって暗号はあくまで手段であり、目的ではないのだろう。第1話から行ってきた周到な準備が終わり、ようやく本当に描きたかったことに突入したのが、今の『暗号学園のいろは』なのかもしれない。

  転生していない悪役令嬢の東洲斎享楽にトラウマ製造機の夕方多夕、ルール無用の匿名希望など、同作には魅力的な役者が続々と揃いつつある。暗号でキャラクターを立てるという前代未聞の試みは、読者をどんな地平まで連れていってくれるのだろうか。

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