『ONE PIECE』はなぜ人が死なない? ギンやエネルなど、再登場が期待されるキャラが多い理由

 「週刊少年ジャンプ」での連載がついに“最終章”を迎え、人気キャラクター総登場の熱い展開が続く『ONE PIECE』。元ドラム王国の暴君・ワポルなど、過去に強烈な印象を残したキャラクターの意外な参戦もあり、長年のファンをよろこばせている。

 そもそも『ONE PIECE』は再登場が期待されるキャラクターが多い作品だ。例えば、序盤に登場したクリーク海賊団の戦闘総隊長で、男気あふれる「ギン」はいまも多くのファンに愛されており、物語への復帰を求める声が根強く残っている。ルフィが天敵だっただけで、無敵の戦闘力を誇っていたゴロゴロの実の能力者・エネルなどもそうだが、過去の登場人物への期待が大きいのは、単に「魅力的なキャラクターが多いから」というだけでなく、『ONE PIECE』という作品のある特性が大きく影響していると思われる。

 『ONE PIECE』は、キャラクターが死なない漫画として有名だ。もっとも「死なない」は語弊があり、過去のエピソードには悲しい別れが多く、また主人公ルフィの兄・エースも衝撃的な最期を迎えている。しかし、戦闘で死者が出ることは極端に少なく、ルフィにぶっ飛ばされた悪役たちも、「扉絵連載」でその後の姿が見られたりする。明確に死が描かれていないなら、再登場の機会もあるはず……というファンの共通理解が、ギンやエネルが人気を維持しているひとつの要因といえるだろう。

 ではなぜ、『ONE PIECE』の世界ではキャラクターが(あまり)死なないのか。

 コミックス4巻の時点で、作者の尾田栄一郎氏が読者の質問に対して「この時代、人々は自分の信念に命を賭け、戦っています」と語っている。海賊たちにとって「信念を砕かれること」「敗北すること」が死に等しい痛みであり、「殺す/殺さない」は二の次なのだという。考えてみれば、エースの命を奪ったのはそうした海賊の論理の外にいる海軍だった。

 また麦わら海賊団の面々は、敵に対して「殺す」という言葉を使わない。より正確にいうと、使わなくなった。作品の初期においては、例えば第36話にこんなシーンがある。海賊の襲撃になすすべなく、ボロボロになりながらも「おれは勇敢なる海の戦士だ!!! 村の者には指一本ふれさせねェ!!!」と叫ぶウソップ。それを嘲笑した海賊たちに対し、ルフィが「もっかいウソップを笑ったら 殺す」と凄むーーいま振り返ればルフィがこのように強い言葉を使うのは珍しく、かえって胸が熱くなるが、その後、あるときから「殺す」という言葉は意識的に排除されているようだ。

 コミックス57巻の質問コーナー「SBS」で、尾田氏は連載の初期において、故郷である熊本の祖母から電話がかかってきたというエピソードを明かしている。そこで言われたのが、「あんまり人を殺すとかいう言葉を使うとでけんばい(いけないぞ)」という言葉。尾田氏自身、友人や知人の死にふれる度に「本当に良くない言葉だ」と感じるようになり、ギャグや悪役のセリフとして描くときも「悪い言葉だ」と思いながら使っていると語っていた。

 『ONE PIECE』でキャラクターが死なないことについては、一部で「緊張感がない」という声もある。確かに、人気キャラクターでもあっさり死んでしまう『HUNTER×HUNTER』のような作品も面白いが、尾田栄一郎はフィクションとは言え、「殺す/殺される」という取り返しのつかない描写から一定程度の距離を置く形で物語を展開しており、そのことが幅広い読者層を獲得し、魅力的なキャラクターを“生かし”続けることにつながっているのではないか。

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