フリーメイソン、世界一有名な秘密結社はなぜ“陰謀論“で語られる? 歴史と理由を考察

■世界一有名な秘密結社・フリーメイソン

 この世界には秘密結社と呼ばれる組織がある。「秘密」とつくだけあって、構成員が秘匿されていたり、活動内容が秘匿されていたりと神秘的なイメージのある秘密結社はなにかとフィクションの題材になりがちだ。

 クー・クラックス・クラン(KKK)、イルミナティ、テンプル騎士団などフィクションに頻出する組織は幾つかあるが、最も有名なのは間違いなくフリーメイソンだろう。

 陰謀論もので大人気の組織であり、登場するフィクション作品は数多い。『ダ・ヴィンチ・コード』をはじめとするダン・ブラウンのロバート・ラングドン教授シリーズなどその最たる例では無いだろうか。メイソンの会員数は全世界で300万人を越えており、恐らくは世界最大の秘密結社でもある。

 実際のところ、フリーメイソンは活動内容を明かしており、日本の会員である高須クリニックの高須克弥院長は活動内容を積極的に発信していた。宗教、政治の話は厳格にNGで、実際はボランティア活動や交流会を行っているとのことだ。フリーメイソンの会員には区分された役割があり、高須氏は2019年に役員になり、金庫番に就任したと明かしている。

 自らがフリーメイソン会員であることを明かした上に、役員に就任したことまで堂々と公言している高須氏に謎の失踪を遂げるなどの不幸が降りかかっていないところを見ると、どうも実際のフリーメイソンは世間で思われているような組織ではないかもしれない。

 フリーメイソン日本グランドロッジ(ロッジ=集会所のこと)には公式サイトもある(発見した筆者も驚いた)。

 欧米では、孤児や寡婦を保護するメイソン・ホームの運営、病院や学校の建設も行っており、アメリカでは「フリーメイソンは慈善団体」というのが一般的なイメージのようだ。

 では、フィクションの世界でよく見るフリーメイソンのきな臭いイメージはどこから来ているのだろうか?

■フリーメイソンの起源

 まずはフリーメイソンという組織の起源について示しておこう。

 フリーメイソンの起源は諸説あるが、日本で広く流布しているのは「中世の石工職人ギルド発祥」説だ。

 世界史を齧った方ならご存じの事と思うが、中世ヨーロッパでは同業者たちがギルドと呼ばれる相互扶助組織をつくり、互いの利益や技術の保持に努めていた。フリーメイソンの起源は中世スコットランドの建築ギルドに所属していた石工たちがつくった独自組織であるというのがこの説の大枠である。

 フリーメイソンのシンボルマークに直角定規、コンパス、などの道具が見られるのはルーツが建築業者のギルドにあるためと聞けば納得だろう。フリーメイソン会員には徒弟(Entered Apprentice)、職人(Fellow Craft)、親方(Master Mason)の3階級があるが、このような名前がついているのも同様の理由である。

 中世、近世において教会やお城の建築材は石だった。石工は王族、領主、聖職者などの権力者たちにとって重要な存在であり、庇護の対象だった。当時の石工は、免税や移動の自由の保障など特権を有しており、フリーメイソンはフリー(免除)とメイソン(石工)を意味していると言われている。

■フリーメイソンと薔薇十字団とオカルティズム

 さて、発祥が石工のギルドというどう見てな実践的な組織として始まったフリーメイソンだが、フィクションの世界に置けるフリーメイソンはオカルティックなイメージが強い。ダン・ブラウンの小説などその典型例だろう。

 フリーメイソンのオカルティックなイメージについて語るには、別の秘密結社である薔薇十字団について言及しなければならない。

 薔薇十字団は十七世紀に突如として現れた秘密結社で、1614年にドイツのカッセルで出版された『友愛団の名声』という小冊子で初めて歴史に記録を残す。

 発足以後、その思想は教皇制の打破などの思想へと過激化。1616年にフランスで発行された『化学の結婚』によると薔薇十字団は魔術や錬金術を行うオカルティズムな方法で世界を救う集団であるとされている。

 以降、薔薇十字団は表舞台から姿を消すが、1623年のパリで「薔薇十字団長老会議長」の署名が入ったポスターが一夜にしてパリの街中の壁に張り出される事件が起きる。

 警察の大掛かりな捜査にも関わらず犯人は見つからず、事件は迷宮入りしている。

 以降、本筋の薔薇十字団の活動記録は無く、薔薇十字団は1614-1616というごく短い期間しか活動した確たる記録が無いことになる。

 16世紀後半には魔女狩りを初めとするオカルティズムヘの弾圧が激化していた事情もあるがそれにしても早い退場である。

 だが、このごく短期間で人々の話題となったことが薔薇十字団の伝説性を高めたのではないだろうか。

 その後、薔薇十字団から派生したと名乗る組織や薔薇十字団から影響を受けた組織が誕生していく。

 薔薇十字団の同志たちが17世紀にこぞってフリーメイソンに加入し、薔薇十字団独特の錬金術的なシンボルをメイソン内に持ち込んだと言われている。フリーメイソンのオカルティックなイメージはこの時代以降のものだ。

 アラン・ムーア原作、エディ・キャンベル作画のグラフィックノベル『フロム・ヘル』は19世紀末のロンドンで起きた悪名高い未解決連続殺人事件「切り裂きジャック」を題材としているが、同作には多分に魔術的な要素が含まれている。

 ムーアは本作で、真犯人は外科医のウィリアム・ガル(1816-1890)であるとの説を採用しているが、第四章「王は汝に何を求めたるや?」ほぼ丸々使ってロンドンの魔術的シンボルをガルに延々と語らせている。

 第二章でガルはフリーメイソンに入社するが、ここでガルは目隠しをされて肩と足を露出している。これは実際のメイソン入社式に忠実だ。

 澁澤龍彦(著)『秘密結社の手帖』によると、この儀式には錬金術的な意味合いとソロモン宮殿を建築した伝説的建築家ヒラムの伝説をなぞる意味あいがあるとのことだ。

 建築ギルドのルーツと薔薇十字団の錬金術的要素が融合したものと考えてもいいのではないだろうか。

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