『SLAM DUNK』彩子はなぜ魅力的? マネージャーとしての高い能力と物語上の重要性を考察

 ロングランを続けているアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』が5月1日、公開150日目を迎えた。これを記念して、原作者で脚本・監督を手がけた井上雄彦が、SNSで感謝の言葉とともに「彩子」のイラストを掲出。ファンからよろこびの声が上がった。

 『SLAM DUNK』ファンには言うまでもないことだが、彩子は湘北高校バスケ部の敏腕マネージャーだ。本作のヒロインは主人公の桜木花道が思いを寄せる赤木晴子と言えるが、『THE FIRST SLAM DUNK』では、エピソードが深く掘り下げられた宮城リョータとの関係性もあり、彩子の登場機会が多く魅力的に描かれていた。

 セリフの一字一句まで記憶しているファンも少なくない『SLAM DUNK』だが、あらためて彩子に注目して読み返してみると、新たな発見があるかもしれない。彼女のユーティリティ・プレーヤーぶりに感心させられるのだ。

 一学年下の素人・桜木花道にバスケットボールの基礎を教え、同じ中学出身の天才・流川のパーソナリティをよく理解し、この二人の活躍に気押されがちな他の一年生には「流川だって桜木花道だって同じ1年生なんだから/あんたたちだってやればできる!!」(コミックス第4巻)と声をかける。桜木を調子づかせるために気の利いた言葉をかけることもあれば、控えメンバーにもきちんと気を配っている描写もあり、不安を抱えていたり、逆に怖いもの知らずで傲慢になることもある新入生をうまくまとめることができる、理想的なマネージャーだと言える。

 同学年で彩子に思いを寄せるリョータのモチベーションキープも上手すぎる。作中で彩子自身の恋愛事情は明らかになっておらず、誰に対してもほぼフラットに接していることも「競技」に重点を置く物語の邪魔をしない美点だが、明らかに自分に矢印を向けているリョータをうまくいなしながら、大事な場面では常に背中を押し、自信と負けん気を与えている。山王工業のゾーンプレスにいいようにやられ、ほとんどパニック状態だったリョータの手のひらに書いた言葉が、「がんばれ」でも「負けるな」でもなく、「No.1ガード」の一言だったのが、実に彩子らしい。

 また、彩子は試合や個別のプレーの解説者/ナレーターとしても能力を発揮している。選手でも監督でもなく、一歩引いた立場で試合を観られるマネージャーという視点から、海南大附属・神宗一郎のシュートの滑らかさに驚いて見せたり、桜木のワンプレーが会場の空気を変え得るものだったと察知したり、読みづらい流川の心情を代弁したり、いいタイミングで読者に必要な情報を届ける役回りもこなしているのだ。赤木剛憲や桜木の負傷に際しては誰よりも敏感に反応し、マネージャーの役割を果たすが、立場を超えた説得はせず、物語上、悪目立ちをしない。

 物語が進むにつれ特段「かわいい」という扱いもされなくなり、ただただチームを熱くサポートしているように見えていた彩子が、映画『THE FIRST SLAM DUNK』で魅力的に描写されていたのは、長年のファンからするとなかなか感慨深いものがある。できることなら、彼女目線のスピンオフ作品も見てみたいものだ。

関連記事