『ONE PIECE』なぜ今、サンジはこんなに熱いのか? “最も人間くさい男”になるまで

「ワノ国編で衝撃を与えた“もう一歩先”の成長」

 ホールケーキアイランド編で、読者はサンジの人格がいかにして育まれたのかを知った。だが、その後のワノ国編では、「騎士道精神」がまったく別の形でドラマに絡んでいる。

 サンジといえば、ナミやロビンといった女性キャラのピンチに颯爽と駆け付ける描写でお馴染みだ。さらに性別すら問わず、仲間たちの身代わりになろうとするシーンもあり、自己犠牲の権化のような性格だった。

 ところが第1005話、「百獣海賊団」の幹部であるブラックマリアに拷問を受けていたサンジは、思わぬ行動に出る。敵がロビンの身柄を狙っていることを知りながら、恥も外聞もなくロビンに助けを求めるのだ。

 これを見た敵は情けない姿だと嗤うのだが、長年サンジを応援してきたファンの受け止め方は違う。ロビンを守るべき相手ではなく、対等な仲間として頼ってみせることは、精神的な成長の証だった。

 また、女性の敵には勝てないという自分の弱さと向き合っているところにも、感動を覚えざるを得ない。今やサンジは窮地を恰好よく切り抜けるMr.プリンスではなく、泥臭く葛藤する姿がなによりも魅力的な、人間くさい男なのだ。ここまで内面的な深みを掘り下げられたキャラクターは、作中で他にいないと言っても過言ではないだろう。

ただ、サンジの苦難はまだまだ終わりそうにない。ワノ国編では戦闘中に改造人間の証である「外骨格」が発現し、人間離れした体になることを恐怖する様が描かれていた。誰よりも人間らしい彼が人間性を失うことに怯える展開は、あまりにも皮肉に満ちている。

 苦悩に満ちた旅路の果てに、一体どんな景色が待っているのか。読者を共感させてやまないサンジのこれからに注目していきたい。

関連記事