ムツゴロウさん、知られざる漫画への貢献 『REX 恐竜物語』でのメディアミックスの多大なる功績
“ムツゴロウ”の愛称で知られていた作家・畑正憲が、4月5日に心筋梗塞のため搬送先の病院で死去した。87歳だった。
【写真】ムツゴロウさんの名著や麻雀中の真剣な眼差しや動物と触れ合う柔和な表情をみる
畑は1935年福岡県福岡市出身。72年に北海道浜中町に「ムツゴロウ動物王国」を建国し、旺盛な執筆活動を続け、『ムツゴロウの青春記』などの著作がある。77年には第25回菊池寛賞を受賞。80年にはテレビシリーズ「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」の放送が開始され、お茶の間の人気者となった。
ちなみに雀士としての一面があり、『ムツゴロウ畑正憲の精密麻雀』『ムツゴロウの麻雀記』などの著作もあり、多芸多才でマルチタレント的な活動を行っていた人物といえる。
そんな畑の小説が原作になった漫画があることをご存じだろうか。それが93年に発表された『REX 恐竜物語』で、『恐竜物語〜奇跡のラフティ〜』を原作にした作品だ。舞台は北海道。古生物学者によって偶然発見された恐竜の卵から生まれた恐竜と、少女の交流を描いている。
表紙の絵を見て、見覚えのある人も多いのではないだろうか。そう、のちに『魔法騎士レイアース』や『カードキャプターさくら』など、数々の大ヒット作を手掛けることになるCLAMPが作画を担当しているのである。
80年代に同人誌作家として名を馳せていたCLAMPは、90年代になると本格的に商業誌に進出し、新書館や角川書店などを舞台に意欲的に作品を発表していた。この頃の作品は描き込みが多く、勢いのあるペンタッチや、スクリーントーンを駆使した美麗な絵が特徴的だ。CLAMPが原作のついた作品を手掛けることは極めて珍しく、ファンにとっても貴重な初期作品と言えるだろう。
なぜ、こうした作品が世に出たのか。当時、角川書店の社長だった角川春樹が進めていたメディアミックス、販売戦略の一環だったと考えられる。『REX 恐竜物語』は角川春樹が監督となって映画化され、93年に公開されているが、なんと主演が子役時代の安達祐実であった。本作は安達の映画デビュー作としても知られている。さらに、主題歌は米米CLUB「ときの旅路 〜REXのテーマ〜」であった。
いかに当時の角川書店がメディアミックスに熱心だったかがよくわかるし、のちの漫画界と、芸能界、音楽界に大きな足跡を残すクリエイターを起用した点は見逃せない。様々な点で『REX 恐竜物語』は非常に興味深い作品である。畑の原作が若手を育てたと言えるし、畑の知られざる業績のひとつと言っていいのではないだろうか。