手塚治虫が訴えた、漫画家が必ず守らなければいけない「三原則」の内容

 漫画を描くにはどうすればいいのだろうか? 今や漫画の描き方を手っ取り早く知りたいなら、ネットでいくらでも調べることができる。イラストの描き方も、YouTuberでイラストレーターのさいとうなおきがレクチャーする動画が上がっている。

 Twitterで検索をかけると、プロの漫画家の解説がたくさん上がっているし、さらには漫画の描き方を教えてくれる大学や専門学校まであるのだ。

 現代の漫画家志望者は、非常に恵まれた環境にあると言える。TwitterやYouTubeを見れば、無料でいくらでも独学ができる。プロから教えを乞いたいなら学校もある。しかし、漫画の黎明期だった昭和20年~30年代は、漫画の描き方を教えてくれる学校もなければ、指南書もなかった。『漫画少年』の投稿欄を見たり、同じ志をもつ友人と交流するなどして、ほぼ独学で技術を身に着けたのである。

 そんな漫画家志望者にとって、救世主のような存在になった本が、石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)が著者になった『少年のためのマンガ家入門』(秋田書店、1965年刊)だった。

この本は石ノ森が持っているノウハウを余すところなく伝えた漫画家入門書の決定版で、当時の漫画少年たちは必ず読んだといわれるほどベストセラーになった一冊である。何しろ、画材のそろえ方や選び方という基本から、プロットの立て方まで、至れり尽くせりの内容だったのだ。

 そして、あの手塚治虫も漫画家入門書を描いている。1950年に刊行された『漫画大學』、そして1977年に刊行された『マンガの描き方―似顔絵から長編まで』である。特に『マンガの描き方』は名著で、比較的ガチな漫画家志望者向けに本を作った石ノ森と違い、ゼロから漫画を描いてみようというライトな層に向けて書かれている。

 とはいえ、入門書として書かれているものの、手塚は漫画の本質に迫る文を数多く残している。特に印象的なのが「漫画を描くうえで、これだけは絶対に守らねばならぬこと」というメッセージだ。

 手塚は「基本的人権」だけは絶対に守る必要があると説く。そして、「どんなに強烈な、どぎつい問題を漫画で訴えてもいいのだが、基本的人権だけは、断じて茶化してはならない」と述べる。そして、以下の3点についてやってはいけないと語っているのだ。

・戦争や災害の犠牲者をからかうようなこと。

・特定の職業を見くだすようなこと。

・民族や、国民、そして大衆をばかにするようなこと。

 この3つだけは、どんな漫画でも必ず守ってもらいたいと手塚は言う。初心者に向けた言葉というよりは、むしろプロになった漫画家も肝に銘じるべき内容であろう。そして、最後にこう述べる。

 「これをおかすような漫画がもしあったときは、描き手側からも、読者からも、注意しあうようにしたいものです」

  本書には、こうした漫画に対する手塚の考えが存分に盛り込まれている。約46年前に出版された本ではあるが、内容は普遍的だ。漫画家を目指す若い世代はぜひ手に取るべき一冊である。

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