『仮面ライダー』の原型『スカルマン』「昆虫(バッタ)」以前の島本和彦が描く「骸骨」のダークヒーロー像

 3月18日【注1】の全国公開を前に、いよいよ『シン・仮面ライダー』(監督・庵野秀明)の話題が盛り上がってきているが、その原作である石ノ森章太郎の『仮面ライダー』に、プロトタイプ(原型)となった作品があるのをご存じだろうか。「週刊少年マガジン」1970 年1月11日号に掲載された、『スカルマン』である。

 1971年1月、東映と毎日放送による「仮面ヒーロー物の新番組」の企画に関わっていた石ノ森は、この『スカルマン』を元にしたキャラクター案を製作サイドに提出するも、既存の作品を応用したものであることと、モチーフが骸骨(スカル)では営業に支障をきたすという理由でいったんはNGになる。

 だが、スカルマンのデザインに思い入れのあった石ノ森は、仮面のモチーフを「骸骨」から「昆虫(バッタ)」へとアレンジ。つまり、似たヴィジュアルでありながら、主人公が象徴するものは「死」から「自然」へと変わり、これがのちの『仮面ライダー』につながっていったのである。

島本和彦版『スカルマン』とは

 さて、その『スカルマン』には、90年代末からゼロ年代初頭にかけて、島本和彦によって描かれた「続編」があり、ここ数年は入手困難だったのだが、先ごろ小学館クリエイティブより全3巻の「愛蔵版」として復刻された。

 ちなみにこの島本版『スカルマン』、単なるカバー作品というわけではなく、晩年の石ノ森が直接、島本に託した正規の「続編」である。当初は、新雑誌「コミックアルファ」の2枚看板として、この作品と石ノ森による『サイボーグ009 完結編』が連載される予定だったのだが、1998年に石ノ森が逝去したため、島本の企画のみが始動することになった。

 主人公の名は、千里竜生(神楽達男)。特殊な能力を持った両親のあいだに生まれた少年だったが、ある時、何者かによって父と母は殺され、自らも命を狙われる。しかし、両親が造った「人造生物ガロ」の助けで窮地を脱することができた彼は、暴力団の組長の養子として成長、やがて、父と母を殺(あや)めた者たちへの復讐を開始するのだった。“冥界より甦りし骸骨男”――「スカルマン」として。

 なんともシリアスな設定の物語だが、島本和彦といえば、『仮面ライダー』をはじめとしたヒーロー物のパロディをふんだんに取り入れたギャグ作品、『炎の転校生』で一世を風靡した漫画家である。

 おそらくは、この『スカルマン』を描く上で彼にとって最大の枷(かせ)となったのは、得意のギャグを封印しなければならなかったことだろう。しかし、見方を変えれば、一流のパロディ作家というものはオリジナルを知り尽くしている存在でもあり、じっさい、島本は本作で過剰ともいえる“石ノ森愛”を貫き、コマ割りから構図にいたるまで徹底的に“石ノ森的”な表現を繰り返すことで、結果的に漫画家として新たな次元へと進むことになった。

秀逸なダークヒーロー論

 むしろ、島本を悩ませたのは、(“ギャグの封印”よりも)もともと石ノ森が『スカルマン』をある種のピカレスク物として想定していたことだったかもしれない。あらためていうまでもなく(ファンならご承知のことだろうが)、漫画家としても、1人の人間としても、島本和彦の根底にあるのは熱い“正義の心”である。そんな作家にとって、“悪”を魅力的に描かなければならないピカレスク、しかも、陰惨な復讐劇の創作は難しいものがあっただろう。

※以下、ネタバレ注意。

 そこで彼が考えたのが、ピカレスク物からダークヒーロー物への転換であった。
 物語の終盤、なんと竜生の前に、(作品の枠を越えて)島村ジョー(=サイボーグ009)とおぼしき男が現れてこんなことをいう。「正義を行うはずの立場の者、その心の奥底にも悪の要素は常に巣くっている……。おそらく、ぼくの心の中にもあるだろう。……これが、ぼくらにとって最初で最後の……そして、最大の敵なのだ…!」

 そう、ここで島村ジョー(とおぼしき男)は、スカルマンこと千里竜生に、身のうちに潜む悪の力を自分のためだけではなく“誰か”のためにも使えといっているのだ。つまり、主人公を単なる「復讐の鬼」ではなく、呪われた力を正義のためにも使える存在――すなわち「ダークヒーロー」にすること。それがたぶん、島本和彦がこの暗く重い内容の物語を最後まで描き切ることができた最大の要因だ。

 そしてその作品テーマの大胆な変更は、主人公の千里竜生よりもむしろ、悪の組織に改造されてもなお、“正義の心”を失わなかった熱血刑事・飛岡剛のキャラクターに色濃く反映されていく(じっさい、多くの読者が感情移入するのは、主人公ではなく、脇役であるはずの飛岡ではないだろうか)。

 いずれにせよ、物語を最後まで読めばわかるが、この島本版『スカルマン』は、「島本和彦による石ノ森章太郎への心のこもったレクイエム」であると同時に、秀逸な「ダークヒーロー論」にもなっている(エピローグでは、複数の石ノ森ヒーローたちも登場する)。奇しくも島本の旧友・庵野秀明による『シン・仮面ライダー』が話題になっているこの時期、興味のある方はぜひ手に取っていただきたいと思う。

【注1】一部の劇場を除き、前日の3月17日の18時から、全国最速公開もされる。

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