“のだめ”二ノ宮知子最新作『七つ屋志のぶの宝石匣』はなぜ面白い? シリアスとギャグの絶妙な間合い

 『のだめカンタービレ』の作者・二ノ宮知子先生が手掛ける最新作『七つ屋志のぶの宝石匣』をご存知だろうか。総合書店「honto」によると、2023年2月13日に発売された18巻は店舗総合コミック部門のほか、通販ストア、電子書籍ストア、計3部門の販売ランキングで上位を席巻。10巻を超える“長編漫画”となっても衰えることのないその人気ぶり.......今回は、そんな『七つ屋志のぶの宝石匣』の魅力を未読の方に向けてお届けしたい。

 物語の舞台は東京下町の質屋。そこの跡取り娘である志のぶには不思議な力がある。それは宝石のオーラが見えるということ。彼女はその天賦の才を発揮して、高校生2年生ながら質屋に持ち込まれる宝石の鑑定に誠心誠意取り組む。

 そんな志のぶを傍で見守りつつ、とある宝石を探し続けているのが婚約者の顕定だ。志のぶより10歳以上も年が離れている彼は思わず目を引くようなイケメンで、普段は高級宝石店の外商として働いている。なんだか不思議な組み合わせの2人だが、もともと顕定は名家の跡取り息子であった。けれど、とある理由により一族離散に遭ってしまった彼は祖母に連れられて、志のぶの家族が代々営む質屋に3年の期日で“質入れ”されてしまう。ただし期限が過ぎた場合は、跡取り娘である志のぶと婚約されることを条件に.......。

 そのまま誰も迎えにくることなく、家族はおろか一族が消息不明となった顕定。その後、志のぶと共に家族同然に育ち、外商の仕事以外では質屋を手伝う顕定だが、裏では一族離散の鍵を握るとある宝石を探し続けている。

 宝石と通じ合う女子高生、一方で家族を取り戻すために奔走する男性......そんな2人が織りなすミステリードラマとなっている本作。顕定が一族離散の真相に近づくたび、そして志のぶが協力するようになってからはミステリーらしく作中には不穏な空気が漂う。けれど、2人の何気ないやり取りはもちろん、質屋に訪れる客、預け入れられた品・宝石から垣間見える人間ドラマからは『のだめカンタービレ』のようなシュールな笑いを感じ取ることができる。シリアスとギャグが同時進行する........この絶妙な間合いが魅力的だ。

 また、良い宝石の選び方や、宝石の価値はどうやって決まるのか?など、作中に登場する宝石トリビアの数々は一読の価値あり。漫画としてはもちろん、”宝石の指南書”としても楽しめる。さらに、18巻に到達した現在でも熱心に注目してしまうのは、志のぶと顕定の恋愛模様だ。最初の頃は軽口を叩きあうなど、恋愛よりも家族、いや兄妹感が強かった2人だが、顕定の一族離散の鍵を握ると宝石を巡り、共に行動するうちにより強まる絆、新たに芽生える感情。近づきそうで近づかない、このむずキュンな恋愛描写も本作をずっと読み続けたくなる魅力の一つだ。

 その昔、二ノ宮知子先生は新連載の企画に「音大のはなし」「質屋のはなし」の2つを当時の担当編集に提案したそうだ。その時は前者が採用され、言わずもがなこの企画が後の『のだめカンタービレ』であるが、当時は選ばれなかった「質屋のはなし」こそが、長い年月を経て現在の『七つ屋志のぶの宝石匣』に。そんな誕生秘話を2巻で明かしている。

 ぜひ、二ノ宮知子先生が描く「質屋のはなし」いや、質屋から始まるミステリー、ギャグ、宝石の指南書、むずキュンな恋愛.......と多様な魅力を放つ『七つ屋志のぶの宝石匣』をぜひ読んでみてほしい。

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