小説版『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が拡張する物語世界 全体像を解き明かす鍵は“シェイクスピア”にあるのか

 もっとも、アサウラが『リコリス・リコイル』に原案として関わっていた以上に、高島雄哉はSF考証という役割を担って、『水星の魔女』の物語世界の根幹に近い部分を、監督の小林寛やシリーズ構成・脚本の大河内一楼らとともに作り上げてきた。何か思惑を持っていそうなユーシュラーの存在や、彼女がステッキをふるとチュチュの髪型とニカの髪型が入れかわってしまう魔法のような新技術が、4月以降のSeason2に関わって来ないとも限らない。チェックしておいて損はない。

 何よりSF作家として活躍し、パンデミック下でVR(仮想現実)やMR(複合現実)が発達した近未来を舞台にした『青い砂漠のエチカ』(星海社FICTION)などの著作を持つ高島雄哉の小説として、SF的なガジェットでありシチュエーションも楽しめる。遭難した小型連絡挺で救助を待つという実習でスレッタとミオリネが見せた振る舞いは、宇宙が舞台のSF小説に近い味わいがある。

 キャラクターのファンに対するサービスであると同時に、オリジナル小説を併載して物語世界を補完し拡張する役割も持った『小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女』。本編がシェイクスピアの『テンペスト』から影響を受けていると言われる中で、同じシェイクスピアの『リア王』や『ジョン王』『空騒ぎ』、そして『トロイラスとクレシダ』が収録エピソードの冒頭に引用されているのも意味深だ。シェイクスピアに全体像を解き明かす鍵があるのか。そんな思いを抱きながら小説版を読み込み、やがて始まるSeason2を観てさらなる驚きを味わう。『水星の魔女』の楽しみ方は尽きない。

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