『シティーハンター』劇場版最新作「エンジェルダスト」で脚光ーー槇村秀幸がファンの心を惹きつける理由

※本稿は原作『シティーハンター』(北条司)のネタバレを含みます。

 劇場版『シティーハンター』最新作のタイトルが『天使の涙(エンジェルダスト)』と発表され、今秋公開されることが明らかになった。「エンジェルダスト」という象徴的なタイトルと、劇場版公式サイトの「冴羽獠の過去、そしてパートナーであった槇村秀幸の死の核心に迫っていく」という解説から、「槇村(秀幸)」にフォーカスした内容になることが予想され、新エピソードが描かれることも期待される。

「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」特報 | 2023年秋公開

 槇村は『シティーハンター』という物語において基本的に過去の人物であり、登場機会は限定的だ。しかし、ファンの心に強い印象を残し、今なお高い人気を誇るキャラクターだと言える。その理由はどこにあるのか。

 第一に槇村は、冴羽遼にとって親友であり、人としての心を取り戻させてくれた恩人であり、信頼できる元パートナーだ。それだけでなく、遼の最愛のパートナーとなった槇村香を義兄として育てた人物であり、またかつては刑事として、本作のもう一人のヒロイン・野上冴子の相棒をつとめるなど、主要キャラクターと深い関係性にある。その誰もの心に槇村が生き続けており、本人がたびたび登場しなくても、あたたかな存在感があるのだ。

 そもそも槇村は刑事時代、囮捜査で殉職者を出してしまったことに責任を感じ、法では裁けない悪と戦うため、遼とコンビを組んでシティーハンターになった。冴子とのコンビが「月とスッポン」と呼ばれていたように、一見、冴えない男に思われがちだが、戦闘スキルは遼に劣らず、メガネを外せば見た目もハンサムだ。正義感が強く、そのぶん“遊び”が少ない印象こそあるが、もう一人の主人公と言ってもいいステータスではないだろうか。

 原作漫画で槇村は、今回の劇場版のタイトルになった「エンジェルダスト」というドラッグを武器に日本進出を狙う麻薬組織「ユニオンテオーペ」を追うなかで、命を奪われている。その当日に走っていた、もう一つのドラマが槇村というキャラクターを象徴しているように思える。

 その日は、香の20歳の誕生日だった。香自身は槇村家に引き取られた経緯を知らず、20歳になったら、香の生母から託された指輪を手渡し、真実を伝える……という計画を槇村は立てていた。香を誰よりも大切にしてきた槇村だが、その計画を実行することは叶わず、最後の頼みとして遼に託すことに。その結果として、遼&香のコンビが誕生した。

 「渡せなかった指輪」「伝えられなかった言葉」と聞くと、思い浮かぶのはプロポーズだが、槇村の計画はそもそも祝福されるものとは言い難い。それでも、最期の瞬間まで血のつながっていない妹を思い続け、責任を果たそうとしたのが、槇村というキャラクターなのだ。少なくとも原作において、槇村は“作品の良心”であり、ハチャメチャな内容も多い『シティーハンター』に対して、通奏低音のように優しく切ない空気を送り込み続けた存在だといえる。

 最新の劇場版で槇村の活躍がどう描かれ、どんな印象を残してくれるのか。それ次第で、原作の見え方もまた変わってくるかもしれない。

※トップ画像は特報動画サムネイルより。
©北条司/コアミックス・「2023 劇場版シティーハンター」製作委員会

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