ホラー界の奇才・伊藤潤二はなぜ海外でも評価される? 卓越した画力で描く、美しさとおぞましさ

 また、展開は突飛だが、物語の始まりは現実と地続きになっていることも多い。先述した「首吊り気球」も“人気アイドルの自殺”という導入部に関しては現実にある話だし、「恐怖の重層」の“可愛い娘に過干渉する母親”という関係性も現実に即している。「いじめっ娘」は、主人公の少女が自分に懐いてくる年下の少年が鬱陶しくていじめ始め、徐々にエスカレートしていくというストーリーだが、最後まで幽霊や化け物は出てこない。どちらかといえばヒトコワ系に近い話だ。どこまでが普通で、どこからが異常なのか。その境界線を越えたことに気付かず、読んでいるうちにとんでもない恐怖世界に入り込んでしまっている、という恐怖体験を味わわせてくれるのが伊藤作品である。

 圧倒的な画力で描かれる、美しさとおぞましさが混同した絵。そして、リアルから始まり突飛な発想で展開していく奇怪なストーリー。これらの要素をもって作り上げられた唯一無二の作品たちは、この先も多くの人を魅了し、見た者を恐怖の世界へと陥れていくだろう。

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