2023年に読むべきマンガはこれだ! 『ジーンブライド』から『ヒッツ』まで、ライター・クリス菜緒が選ぶ必読7作品

 2023年もあっという間に半月が経った。すでに数多くの新作が書店に並んでおり、いちマンガ好きとしてはどの作品を手に取ろうか、頭を悩ませる日々を送っている。そんな悩ましい日々を送る筆者だが、「間違いなく続刊を手に取る」と心に決めている作品もある。今回は、筆者が2023年も期待を寄せている7作品を紹介したい。

『ジーンブライド』高野ひと深(FEEL YOUNG/祥伝社)

 1作品めは、「このマンガがすごい!2023」のオンナ編で第2位にランクインし、「ブロスコミックアワード2022」では大賞をとった『ジーンブライド』。同作は“女性の生きづらさ”に絶望を覚える主人公・諫早依知(いさはや いち)の日々を描く。そのため“フェミニズムマンガ”と言われることも少なくない。確かにその一面もあるのだが、女性に寄り添うだけの作品ではないと思う。さまざまな生きづらさを覚える自分の痛みには、"ともに怒ってくれる”心強さを。反対に、人の生きづらさに鈍感な自分がいることにも気づかせてくれる。

 さらに同作は、誰にでも身近なテーマにSFを絡めてくるのだ。依知がかつて過ごした中学校に蔓延る謎が、物語を一気に加速させていく。この謎にも、読んでいる自分の怒りとそれをごまかす自身の愚かさを突きつけられるのだ。謎が謎を呼ぶ展開の中にも、共感とは異なる「自分の物語だ」と思わせる力を持っている同作から、ますます目が離せない。

『煙たい話』林史也(マンガコミソル/光文社)

 次に選出したのは、「次にくるマンガ大賞2022」にノミネートされた『煙たい話』だ。一匹の猫を拾ったことをきっかけに再会した高校の同級生の武田と有田が、同じ屋根の下で過ごす日々を描く。

 長いこと会っていなかった、友達というには少し距離があるようなふたり。久しぶりの再会で燃え上がる恋愛感情、のようなものもない。ただただ、一緒にいたいとふたりは同居を始める。そんなふたりに投げかけられる、何の悪気もない“住む理由”や“相手との関係性”への質問に、自分の中にも存在する“いかにも正しそうな常識”が重なるのだ。

 一緒にいる理由も、自分たちの関係も言葉に当てはめず、己の“大切”を信じて動くふたりの日々を、2023年も見守りたい。

『幕末女子高生 鬼と夜明け』いくたはな(路草/トゥーヴァージンズ)

 3作品めには、『幕末女子高生 鬼と夜明け』を選出。“現代を生きる女子高生に新選組や幕末志士の魂が宿る”という設定の斬新さに目をひかれた。またかつては敵対する思想を持っていた坂本龍馬と土方歳三が、現代では問題児と風紀委員としてぶつかる関係ながらも惹かれ合っていく予感に、胸の高鳴りが止まらない。

 物語は恋愛に関する厳しい規則が設けられる厳格な女子高を舞台に、史実を織り交ぜながら進んでいく。歴史の教科書や大河ドラマで見た時代の変革が、現代の女子高でどう描かれるのか、期待が高まる作品だ。

『女の園の星』和山やま(FEEL YOUNG/祥伝社)

 「このマンガがすごい!」では2年連続上位ランクイン、マンガ大賞や文化庁メディア芸術祭にもタイトルが並ぶ『女の園の星』を、2023年期待の作品として挙げるのは、もはや今さら感も否めない。だがやはり、2023年も星先生と女子高生たちの動向から目が離せないのだ。

 描かれているのは、女子高勤務教諭の“本当になんてことない淡々とした日常”のはずだ。にもかかわらず、ゆるい面白さが一切減速せずに、フルスロットルで更新されていく。多くの人が気にも留めない“実は面白いなんてことない”を掬い上げ続ける、著者・和山やま氏の衰えを知らないその手腕に、2023年もきっと笑わせられるのだろう。

『霧尾ファンクラブ』地球のお魚ぽんちゃん(COMICリュエル/実業之日本社)

 “儀式”と書いて“どりょく”と読むラブコメディが過去にあっただろうか。『霧尾ファンクラブ』の話である。クラスメイトの霧尾くんを好きになってしまったふたりの女子高生・三好藍美と染谷波の霧尾くん一色な日々が描かれる。

 同じ人を好きになったライバルでありながら、ふたりが霧尾くんについて語り合う時間からは、恋の楽しさが伝わってくる。と同時に、彼とのデートを妄想したり、両想いになる自分に都合のよい思考を巡らせたりする彼女たちの恋に狂わされ、こじらせている姿に見覚えを感じ、怖くなってくるのだ。

 また、ふたりのターゲットである霧尾くんのご尊顔が一切出てこない点が、読者の想像をかきたてる。あまりにも愛おしい霧尾くんの行動のひとつひとつに、読者までもが狂った恋心を抱きかねない状況が生まれているのだ。ライバルは増えてほしくないが、恋する乙女の狂気はぜひ見守っていただきたい。

『極楽街』佐乃夕斗(ジャンプSQ/集英社)

 そもそも絵が描けない人間なので、画力どうこう言うのは失礼にあたると思っているのだが、『極楽街』はもう、圧倒的な絵の力に惹きつけられ本を取らざるを得なかった一作だ。表向きは問題解決屋、しかし裏では生き物の血肉を喰らう化物“禍(まが)”専門の殺し屋という顔を持つタオとアルマの戦いの日々を描いている。

 一目見ただけで名前と姿が一致する、イキイキと生きたキャラクターの存在感。ふたりが2つの顔を使い分けなければならない、賑やかな中にも不穏さが垣間見える下町の空気感。そしてなんといっても豪快さと繊細さが共存するバトルシーンが、心の中に眠る少年を呼び起す。

 物語はまだ始まったばかりで、これからという部分も多いのだが、タオとアルマが出会った過去や禍にまつわる謎などが明らかになっていくであろう今後の展開に期待している。

『ヒッツ』柴田 ヨクサル/沢 真 (コミプレ/ヒーローズ)

 「よくもまあ、こんなにも濃厚な変態を次から次へと投入してくるな」と思う殺し屋アクション『ヒッツ』も、ガツンときた一作だ。殺し屋の高校生・富田結途(とみたゆず)が、どういう理由でなのかはわからないまま殺しの対象として現れたもう1人の自分とバディを組み、ヒットマンコンビ“ヒッツ”として暗躍する様子を描く。

 同作の魅力は、キャラクターの“己の癖(へき)”の強烈さにある。一癖どころではなく最低でも五癖くらいはあるその個性が、バトルや日常のそこかしこにほとばしっているのだ。このハイテンションな展開に、平行世界の謎やアルティメットヒューマンを名乗る人間の登場が加わり、先を読むことを許してくれない。

 実は筆者は、同作を刊行する出版社に昨年より勤めているのだが、入社するまでこの作品の存在すら知らなかった。会社を知るためにと読み始めたはずが、気づけば自分で全巻揃えるくらいにハマっている。物語のあちこちに張られた伏線がどう回収されていくのか、いちファンとしてますます目が離せない。

2023年もマイベストマンガとの出会いを大切に

 近年、「マンガ大賞」や「このマンガがすごい!」などのマンガ賞だけでなく、SNSのタグで自分だけのベスト作品を振り返る人も増えている。数多くの作品が誕生し続けている現代において、この“マイベスト”の風潮は、より多くのマンガとの接点を生み出すきっかけになりえると感じている。筆者が紹介した今回の7作品も、マンガ選びの一助となったら嬉しい限りだ。

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