世界には絶滅寸前の食べ物が5000以上も……失われていく「食の多様性」を考える書物
本書を読むと食糧危機に対する恐れはもちろんだが、取り上げられる絶滅危惧食への愛着に加え、自分もなにか協力できないかという気持ちも芽生えてくる。たとえば、気になった食材・食品を購入して応援とか。ただし、〈なんでも安易に通販していると、土地と食べものの結びつきを弱め、結局は均一化を助長してしまうのでは? それとも、遠く離れたところからでも、保護するためには買うほうがいいのか?〉と、あとがきで訳者もまだ迷うぐらいに絶滅危惧食の問題は複雑である。それでもいくつかの取り組みからは、育てたり買う以外で自分たちのできることも見えてくる。
アメリカで人類学を学んでいたヴィヴィアン・サンスールは、故郷のヨルダン川西岸地区に戻り「パレスチナ在来種子ライブラリー」を創設する。紛争によって姿を消した品種を捜索・保存するのが、彼女の決めた一人きりでのミッションだった。その手始めに、これから探す野菜と豆の種子が詰まった瓶の写真をフェイスブックで投稿してみる。すると、この野菜も探してほしいというメッセージが殺到し、失われた農作物を懐かしむ人々の存在を確認する。
経済危機にあえぐベネズエラ。不景気のあおりで自分のレストランを畳まざるを得なかったシェフのディ・ジャコッベは、かつて国の輸出を支えたカカオを使い、チョコレートの製造販売を始める。彼女はその利益を独占するのではなく、職を失った同胞たちとノウハウを共有し自立を支援しながら、ベネズエラの食文化を守る。
こうしたコミュニティへの参加や情報のやりとりは、ITの発達した現代だからこそ誰でも取り組みやすく有効な手段に思える。新しい技術は食べものだけでなく、本書を読んだ読者の力も引き出してくれるはずだ。