漫画と現実が逆転!? 『サンダー3』絵柄の落差で描く、混濁した世界観

 その後、謎に満ちた物語が次々と展開されるのだが、コンセプトとして全面に打ち出しているのは、絵柄の違いを用いたリアリティの混濁だろう。最初に登場するぴょんたろうたちは等身の低いキャラクターとなっている。友人の吾妻つばめの名前にも引用されている、吾妻ひでお、鴨川つばめといった漫画家の絵柄を彷彿とさせる記号的なデザインとなっており、風景も簡略化されている。対して、モニターの世界の人々は、等身の高いリアルに寄せたキャラクターで、背景も写真のような画像となっている。

 写真のような解像度の高い風景や上空に浮かぶ宇宙船の描写は奥浩哉の『GANTZ』(集英社)や、浅野いにおの『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(小学館、以下『デデデデ』)を彷彿とさせるものとなっている。

 この二作の影響は、本作のキャラクターや世界観にも強く現れている。モニターの世界のキャラクターの絵柄は『GANTS』等の奥浩哉の漫画に寄せられており、宇宙船や宇宙人が生活の中に溶け込んでいるという、日常と非日常が混在した世界観は『デデデデ』と近いものがある。

 奥も浅野もデジタル技術による高密度な作画を展開することで、現実と虚構の混濁した世界を構築した漫画家だが、そこに「絵柄の落差」という漫画ならではの手法を持ち込んだのが『サンダー3』だ。

 モニターの中の世界に迷い込んだ手塚たち3人は、自分たちの家のあった場所に向かう。そこには、自分たちとは絵柄の違う等身の高い手塚と、その家族がいた。こちらの世界では父親の漫画はアニメ化されており、手塚たち三人のビジュアルがアニメのキャラクターと瓜二つだったことがわかる。

 では、手塚たちの世界はアニメだったのか? だが、手塚たちから見れば、ここはテレビモニターの中の世界であり、しかもこの世界には宇宙人まで襲来しているのだから、どちらが現実でどちらが虚構かは判断できない。

 物語冒頭ではドクが無限に似たような世界が存在する平行世界について授業で説明している。マーベルのヒーロー映画を筆頭に、マルチバース(多言宇宙論)という概念がフィクションに定着して久しいが、それを「絵柄の違い」という形で描いたのが本作の斬新さである。

 今後のストーリーがどうなるかは、まだまだ未知数だが、絵柄の違いで世界観を表現した本作の冒頭は、漫画史に残る画期的な“つかみ”だったと言えよう。

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